世界初の”グライダー爬虫類”として知られる「コエルロサウラブス・エリベンシス(Coelurosauravus elivensis)」は、約2億6000万〜2億5200万年前のペルム紀後期に生息していました。

一方で、発見されている化石数が少ないため、彼らがどんな生活を送り、なぜ滑空能力を進化させたのか、いまだに議論に決着がついていません。

しかし今回、フランス国立自然史博物館(MNHN)、独カールスルーエ州立自然史博物館(SMNK)の研究チームは、数少ない化石サンプルから、これまで知られていなかったコエルロサウラブスの骨格の仕組みを解明。

さらに、そこから推察される滑空能力は、当時の森林における「樹冠の変化」により獲得された可能性が高いことが示唆されました。

研究チームは、樹冠の距離が開いたことで、その間を飛び移るために、滑空能力を進化させたと見ています。

研究の詳細は、2022年9月8日付で科学雑誌『Journal of Vertebrate Paleontology』に掲載されました。

骨格を復元し、滑空や運動能力を明らかに

コエルロサウラブスの唯一の化石標本は、1907年から1908年にかけて、アフリカ南東沖に浮かぶマダガスカルで発見されました。

この標本は、それから約20年後の1926年に、ウェイゲルティサウルス科・コエルロサウラブス属の「コエルロサウラブス・エリベンシス(Coelurosauravus elivensis)」として、正式に記載されます。

今回の研究では、このC. エリベンシスの3つの化石を組み合わせて、ほぼ完全な一つの骨格を復元し、今まで知られていなかった形態や運動能力を明らかにしました。

C. エリベンシス(A)の実際の化石と、それをシリコンで型取りしたもの(B)、中央下のスケールバーは5cmに相当
Credit: Valentin Buffa et al., Journal of Vertebrate Paleontology(2022)

ここでは特に、頭部より後ろの部分ー胴体、四肢、滑空器官である飛膜(patagium)ーに焦点を当てています。

飛膜とは、前脚と後脚の間の脇腹に沿って生えた”膜状フラップ”のことで、ムササビやフクロモモンガに見られるものと似ています。

これまでの研究で、コエルロサウラブスの飛膜は、今日の東南アジアに生息するトビトカゲ属(Draco)と同じように、肋骨から伸びた骨によって支えられていると考えられていました。

ところが、今回復元した骨格を分析してみると、下腹を覆っている「腹肋骨(ふくろっこつ)」から伸びていた可能性が高いことが判明したのです。

つまり、コエルロサウラブスの飛膜は、現代の滑空トカゲよりも、腹部のより低い位置から生えていたと考えられます。

現生するトビトカゲ属の「インドトビトカゲ」
Credit: ja.wikipedia

また、コエルロサウラブスは、前脚に鋭く尖った爪を持っていたことがわかりました。

この爪はおそらく、今日のトビトカゲと同様に、滑空中に飛膜をグリップし、飛行を安定させたり、体勢を微調整するのに使われたと推測されます。

さらに、コエルロサウラブスは、木の幹を垂直に移動するのに完全に適した”圧縮体形(compressed body)”をしていました。

加えて、前肢と後肢の長さが同じで、均整が取れており、木の表面に安定して密着できたと思われます。

このことから、コエルロサウラブスは、滑空能力だけでなく、木登りの達人でもあったようです。

「コエルロサウラブス・エリベンシス」の化石サンプル
Credit: Valentin Buffa et al., Journal of Vertebrate Paleontology(2022)

以上の特徴は、コエルロサウラブスが、背の高い木々や樹冠を容易に移動できたこと木から木への安定した滑空ができたことを証明しています。

となると、この史上初の”グライダー爬虫類”を誕生させた原因は、いったい何だったのか?

研究チームは、それが「樹冠の変化だった」と考えています。

樹冠の変化に適応するため、滑空能力を進化させた?
Credit: Charlène Letenneur – Changes in the tree canopy facilitated the evolution of the first-ever gliding reptile, new study suggests(phys, 2022)

地球上に初めて森林ができたのは、デボン紀(約4億1600万〜3億5920万年前)の後期です。

その後、ペルム紀(約2億9900万〜2億5100万年前)に入り、シダ植物に加えて、裸子植物が繁栄しましたが、その前期に当たる「南ウラル世(Cisuralian、2億9800万〜2億7200万年前)」には、森林の樹冠が密集しており、木々の距離が近かったことがわかっています。

そして、この時期までには、樹上性の脊椎動物がすでに存在したものの、どれもグライダー能力は獲得していません。

おそらく、樹冠が密集していたので、木から木へ飛び移る必要がなかったからでしょう。

しかし、その後の約2億6000万年前に、滑空能力を持ったコエルロサウラブスが登場します。

この状況証拠から推察されるのは、森の木々の樹冠の間隔が開いて、空間的に分離し始めたことで、樹上の爬虫類が滑空の必要性に迫られたということです。

つまり、コエルロサウラブスは、樹冠の変化に適応するために、翼のような飛膜を獲得したのでしょう。

参考文献

Changes in the tree canopy facilitated the evolution of the first-ever gliding reptile, new study suggests World’s first gliding reptile evolved 260 million years ago thanks to changes in the tree canopy which meant it could no longer scramble between branches, study suggests

元論文

The postcranial skeleton of the gliding reptile Coelurosauravus elivensis Piveteau, 1926 (Diapsida, Weigeltisauridae) from the late Permian Of Madagascar