研究者の性別が効果に違いを生んでいました。
米国のメリーランド大学(University of Maryland)で行われた研究によれば、抗うつ剤「ケタミン」をマウスに投与する場合、研究者が男性である場合にのみ治療効果を発揮することが判明した、とのこと。
一方で、女性の研究者が同じようにケタミンを投与しても、マウスの抗うつ効果があまり得られないことが示されました。
研究者の性別が実験結果に違いを与えていたという結果は、今後の動物実験の手順に大きな影響を与えるとかんがえられます。
しかし、いったいどうして研究者の性別が抗うつ薬の効果に違いをうんだのでしょうか?
研究内容の詳細は2022年8月30日に『Nature Neuroscience』にて掲載されています。
研究者の性別が違うとマウスへの「抗うつ剤」の効果が違うと判明!
猫好きの人のなかには、猫は人間の男性よりも女性のほうが好きな傾向があるという話を聞いた人もいるでしょう。
猫が本当に女性好きかは意見がわかれるところですが、マウスにおいては以前から、研究者の性別によってかなり反応が違うことが知られていました。
たとえば2014年に行われた研究では、マウスなどの実験用げっ歯類たちは人間の男性の匂いに強いストレスを感じてある種の戦闘態勢に移行し、痛みを感じにくくなっていることが示されています。
一方で女性の匂いに対しては、そのようなストレス反応はみられませんでした。
これらの結果は、マウスの精神や脳を調べる研究において、研究者の性別の違いが無視できない要素であり、実験結果を歪めかねないことを示します。
しかし現在に至るまで、研究者の性別がマウスを用いた実験結果に与える影響について体系的に調べられることはありませんでした。
そこで今回、メリーランド大学の研究者たちは、人間の性別とマウスの反応について、改めて詳しい調査を行うことにしました。
実験に当たってはまずマウスたちを強制的にうつ状態にするために「強制水泳テスト」と「慢性社会的敗北ストレス」の付与の実験を行ってもらいました。
強制水泳テストではマウスを脚がつかない円筒状の水槽に漬け込んで「どうがんばっても水から抜け出せない状態」に置くことで、マウスをうつ状態に移行させます。
また慢性社会的敗北ストレスの付与は、強いマウスに弱いマウスを持続的にイジメさせることで「どうがんばってもイジメから抜け出せない状態」に置くことで、うつ状態に移行させます。
一連の処置が終わると、次に研究者たちはマウスたちがどれだけ強くうつ状態に陥っているかを調べました。
うつ状態に陥ったマウスたちは、大好物のはずの砂糖水を飲まくなったり、他のマウスとの接触を避けるようになるなど、人間のうつと似た症状をみせはじめます。
研究者たちは、これらの行動変化の度合いを調べることで、マウスたちのうつ状態の強さを測定することが可能になります。
結果、実験(拷問)を行った研究者たちが男性の場合、マウスはより強いうつ状態に移行していることが判明します。
しかし、うつ状態に陥ったマウスを抗うつ薬「ケタミン」を用いて治療した場合には、意外な結果が現れました。
マウスに「ケタミン」を投与してうつ状態がどれほど改善するかを測定したところ、男性の研究者によって注射が行われた場合のみ、マウスのうつ状態の改善効果があることが判明したのです。
一方で、女性の研究者によりケタミンの注射を打たれたマウスでは、ほとんど治療効果がみられませんでした。
これらの結果は、マウスの精神を研究する実験では、研究者の性別が実験結果に甚大な影響を与えていることを示します。
しかし、一見するとこれらの結果は直感に反します。
本能的に緊張してしまう人間の男性が拷問を行った場合に、マウスがより強いうつ状態になってしまうのは理解できます。
ですが、なぜ苦手なはずの男性から薬の投与を受けたほうが、治りが良いのでしょうか?