株式市場が冴えません。予告をしていた通りの展開になっているので個人的にはさほど驚きませんが、もう少し後かなという気もしていました。いったい何が起きているのか、そして、下値の目途はあるのか、探ってみたいと思います。

まず、今回の下げの主因は先週のジャクソンホールでのパウエル議長の発言に市場が嫌気を示したと断言してよいでしょう。先週金曜日から木曜日までの5日間だけでダウは約2000㌦下げ、ナスダックは5日連続安です。その下げ方が非常にいやらしいのです。金曜日に1000㌦下げて下げ過ぎではないかと思ったのですが、その後、小反発があっても数時間もしないうちにすぐに打ち消し、ただただ下げ続けるという展開になっています。

反転のきっかけとしては明日の雇用統計の結果が注目されます。事前予想が30万人増となっていますが、これを上回れば経済は雇用面からは強靭であると理解され、次回のFOMCで0.75%の利上げがほぼ確定的になり、投資家の腹が据わります。仮に予想をかなり下回る弱々しい数字であれば強気な利上げ心理が弱まるので株価反転のシナリオも描けます。つまり市場独特の都合の良い解釈が成り立つかどうか、であります。

このポイントは市場が0.75%もの利上げに食傷気味であり、「もうこれ以上、上げないでよ」という催促相場になっているのです。そもそも0.75%という利上げ幅は通常の3倍であり、これが2会合連続で実施されました。その上、次も0.75%か、となればそれはFRBのコロナ期の政策がそもそも間違っていたために今になって必死になってキャッチアップしようとしている後追い利上げであろう、ならばパウエル議長の経済予見能力が十分ではなかったわけで議長としての資質を問う声も出てきておかしくないのです。

確かに昨年のジャクソンホールではこの物価高は一時的と断定的に述べ、イエレン財務長官も「そうよ」と同意し、数か月後に間違いだったとなり、厳しく糾弾されました。とすれば今のFRBの利上げ一直線もやりすぎで間違っていると後で気がつく公算もあるともいえましょう。

FRBが気にする雇用と物価ですが、雇用についてはアメリカのみならず、先進国は統計上の数字は十分タイトになっていますが、金利で調整する局面にありません。むしろ被雇用者と雇用者のバランスが悪いこと、被雇用者の質の低下で生産性が悪化していることが主因で労働市場の自助作用を期待すべきです。次に物価ですが、8月のCPIは9月20日の発表を待たねばなりませんが、引き続き下落が見込まれています。パウエル議長は「こんなに物価が上がった中、1回や2回ぐらいの下落では下がったとは言えない」と変化点を無視するような発言をしたのはちょっと驚きでした。これは議長としては失言ではないでしょうか?

何を言いたいのか、といえば今年初めから株式市場が不安定化している原因がパウエル ワンマン ショーであるのです。市場を疑心暗鬼にさせている、そして経済があたかも強い、消費も好調だと勘違いしている点です。現時点で経済が好調に見えても持続性があるとは言えません。住宅市場は7月の着工件数は昨年比8.1%減、完成物件が3.5%増、許可件数が1.1%増です。これをどう読むかといえば売れない物件が急増し、更に今後も住宅開発が急に止められず、完成在庫が一気に増える公算が高いと予想できるのです。

自動車販売は7月度が年換算で1340万台です。これはリーマンショック時期程ではないにせよ相当低く、自動車販売会社には引き続き人気ある車の在庫が極めて少ない状態が続きます。生産管理では世界のトップクラスであるトヨタでさえ一部車種で過去ありえなかった納車半年から1年待ちの状態が起きているのは半導体がやはり足りないという理由に行きついています。ではその半導体会社はウハウハかといえば先行き見通しを引き下げているのです。本日、NVIDAはアメリカ政府から中国向けの主力半導体の輸出禁止を命じられ、株価は10%以上下落しました。歯車がぜんぜんかみ合っていない、これが今の経済なのです。これを嫌気したのが株式市場であります。

溶ける株式市場の行方:パウエル議長が株式市場を不安定化させる
(画像=パウエルFRB議長 Board of Governors of the Federal Reserve System SNSより、『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

では下値の目途です。市場は明らかに売り飽きています。買いたい気持ちがとバーゲン価格の株価によだれは垂れるけれど、触手が動かない状態です。そもそも9月と10月は株式市場の地合いが悪い時で何が飛び出すか予想できません。中国共産党大会、アメリカ中間選挙、ウクライナ問題、新興国経済の崩落、食糧危機など潜在的ネタは尽きません。仮にダウが3万㌦を再度割る状態になればチャート的に下値目途は無くなります。ですが、当面は3万㌦の攻防でそこで止るかが着目点になるとみています。仮に何か全然違う悪材料が出た場合、むしろそれがリセッションの可能性をより確証へと近づける形になり、利上げを止めるきっかけになるというシナリオも描けます。

コロナから始まった狂った歯車は我々を未体験ゾーンに引き込み、専門家ですら判断できない状況を作っています。ならば我々素人がそこで儲けること自体がおぞましいのである、と割り切ってしまうしかないでしょう。9月に入って想定外の事態が起きないことだけを祈っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年9月2日の記事より転載させていただきました。

文・岡本裕明/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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