ウエイトトレーニングを行う者であれば、絶対にスクワットを経験しておくべきだと木澤大祐選手は考える。ケガを負いながらも20 年以上、スクワットと向き合ってきた。肉体と精神の両方を鍛えることができ、減量中のパワー維持の基準になると語る、木澤選手のスクワット論とは。(IRONMAN2017年3月号から引用)
取材・文:藤本かずまさ 撮影:上村倫代 取材協力:エクサイズトレーニングスタジアム
木澤大祐のスクワット論
――木澤選手がプログラムにスクワットを組み込むようになったのはいつごろからでしょうか。
木澤 トレーニングを始めた最初の1、2年は脚のトレーニングをまったくやっていなかったんです。脚のトレーニングをやるようになってからは、必ずスクワットはやるようにしています。ボディビル自体は17歳からやってはいたので、スクワットをやり始めたのは19歳くらいからですね。
――トレーニングを始めた2年目にスクワットの必然性を感じたのですね。
木澤 当たり前なんですが、上半身のトレーニングしかやっていなかったので脚が明らかに細かったんです。太くしないといけないと思って、スクワットを始めました。当時は脚のトレーニングのメイン種目がスクワットでした。
――どのくらいの重量から始められたのでしょう。
木澤 最初は100㎏くらいから始めたと思います。1年で140㎏、2年で180㎏まで伸ばせました。
――それはすごい。
木澤 フォームのことなどは何も考えていませんでした。「とにかく担いで上げる」という感覚で取り組んでいました。ただ、しゃがむ深さに関しては、自分の中で基準を作ってはいました。そこまで深くしゃがんでいたわけではないですが、浅くなったり深くなったりしないように、常に一定のレンジでしゃがむようにはしていました。
――使用重量のアップとともに脚も変化していった?
木澤 最初のころは、重量が伸びると同時に脚が太くなっていきました。180㎏に達してからは急激に重量が伸びるようなことはなく、徐々に伸びていったという感じです。30代半ばまではスクワットを1種目に持ってきて、重量を伸ばすことに取り組んでいました。最終的には250㎏を6レップスでメインセットを組んでいました。
――1種目めからスクワットを外した理由はなんだったのでしょう。
木澤 長年スクワットで重量を追い求めていたので、ケガなどの症状が出てきてしまったんです。これ以上、重量を伸ばすとなると、脚よりも他の部位に支障をきたすようになる。そういった事態になるとトレーニングそのものが成立しなくなってしまいます。
――ニーラップを巻く位置は、膝よりも下なのですね。
木澤 傷めた個所の安定感を出すために巻いています。僕は半月板が断裂しているらしいんです。症状からいって、断裂だろうと。自分でも、膝にかなりの違和感があるんです。痛みはないんですが、膝を動かすと何かが潰れるような、気持ちの悪い音がするんです。膝の下を圧迫すると、少し膝が安定するんです。
――いつくらいに傷めたのですか。
木澤 3カ月ほど前です。レッグエクステンションをやっていたら膝が痛くなってきたんですが、それまで経験した痛みとは違ったんです。その翌日には水がたまって膝を曲げられなくなっていました。整形外科の先生に相談したら、断裂していると。数年前にも同じ先生にMRIを撮ってもらったんですが、そのときに「物理的に膝を消耗しきった状態」だと言われました。僕は脚の力が強いので、膝関節に負担がかかっていたんだと思います。長年に渡ってトレーニングで膝関節を酷使してきたので。
――膝関節を“使い切った”状態にある?
木澤 そういうことなんだと思います(苦笑)。かといって、使用重量をそのままにとどめていても、その後の成長はない。なので今は安全に重量を追い求められる種目、例えばレッグプレスやハックスクワットなど腰への負担が少ない種目を最初に行い、疲労しまくった状態で最後にスクワットをやるというプログラムで行っています。ここからさらに重量を伸ばせるよう取り組んでいます。疲労した状態で行うので、今は担いでも200㎏くらいですね。
――それでも200㎏⁉
「スクワットをやることで、トレーニングに対する心構えや緊張感が持てるようになるんです」
木澤 自分の中の基準として200㎏は担いでおきたいんですよ。正直なところ、160㎏から190㎏くらいまでの重量では、「重い」とか「軽い」とかの感覚の差を感じないんです。200㎏を担ぐとズッシリとした重さを感じられて「スクワットをやっているな」という感覚を味わえます。理論的に考えれば、大腿四頭筋に関してスクワットはパーフェクトな種目ではありません。でも、スクワットでは全身、さらには精神も鍛えられる。そういった意味合いで取り組んでいます。
――ケガをしながらもスクワットをプログラムから外さないのは精神的な意味合いも大きい?
木澤 大きいです。最後の種目で他の筋肉を駆使しながら脚の力を振り絞るという意識でやっています。また、スクワットをやると、体の歪みやバランス、その日の調子などが顕著に出ます。自分のコンディションを把握するためにも、できるだけやるようにしています。
――20代のころと現在とではフォームを変えた部分はありますか。
木澤 自分が上げやすいフォームで常にやっていました。ただ、上げやすいからといって膝を内側に絞ったり、負荷が抜けたりするような上げ方は一切やりません。スタンスは、自分が上げやすい足幅でやっています。僕は股関節が固いので、ナロウスタンスで深くしゃがむのは無理があるんです。ワイドスタンスも、内転筋が硬いから深くは下せない。だから、ミディアムからややワイドのスタンスでやっています。立ったときにもっとも安定するスタンスですね。
―― 「上げやすいフォームで行う」ことがケガ防止につながる?
木澤 そうですね。僕のなかでは、スクワットは細かな細工をして特定の筋肉に効かせるための種目ではないんです。とにかくガン!と重たいものを担ぐ。細かな細工をするのはレッグプレスなどのマシン系ですね。スクワットに関しては、あくまで自然なフォームで行っています。スクワットでは効かせられない筋肉を他の種目で鍛える、というイメージです。
――小細工なしで、高重量を担ぐのですね。
木澤 今はジムに行くといろんなマシンがあり、高重量のスクワットをしっかりとやり込むような人が少なくなってきたように思えます。私としては、スクワットは絶対にやってほしい種目です。スクワットをやることで、トレーニングに対する心構えや緊張感が持てるようになるんです。今はそれほどの重量を担いではいませんが、重たい重量を扱っていたころは脚のトレーニングの日の二日ほど前から緊張感がありました。スクワットほど緊張感が味わえる種目はなかなかないと思います。あと、スクワットの使用重量は減量中のパワー維持の基準にもなります。スクワットがしっかりできているとパワーも落ちていないと。その目安をスクワットで作っています。
――逆に、スクワットで怖い思いをしたことは?
木澤 スクワットではよくケガをします。腰を痛める原因は、だいたいスクワットです。動作中は痛くないんですよ。疲労がたまっているときは、ラックにシャフトを戻した瞬間に腰に激痛が走ることもあります。
――そういった状況でも、緊張感を持って立ち向かわせる魅力がスクワットにはある?
木澤 ありますね! スクワットができずにジムから帰るときは、すごく後悔の念に駆られますからね(苦笑)。
――つらい減量などを強いられるボディビルダーにとっては必須の種目と言えそうです。
木澤 もちろんです。理論的に完ぺきな種目かといえば、決してそうではないかもしれませんが、体づくりに真剣に取り組もうというのであれば、絶対にスクワットを経験しておくべきです。これは精神修行ですよ。
木澤大祐(キザワ ダイスケ)
1975年1月9日生まれ、愛知県名古屋市出身。身長170cm、体重82㎏(オン)、オフ(89㎏)医療廃棄物の回収という肉体労働をしながら大会出場を続けていたが、2017年2月にJURASSIC ACADEMYをオープン。2019年4月には独立してオーナーに。爆発的な筋量を誇り「ジュラシック木澤」「東海の恐竜」の異名で多くのファンを持つ。2020年7月7日からJURASSIC KIZAWACHANNEL(YouTube)を開設。登録者数4.6万人。一男二女の父。
主な戦績:1995年 日本ジュニア選手権優勝、2003年 ジャパンオープン選手権優勝、2008・2019年 日本選手権4位、2014・2015・2019年 日本クラス別選手権85㎏級優勝、2021年 日本選手権2位
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。
提供元・FITNESS LOVE
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