子どもの頃、親の運転する車でガソリンスタンドに立ち寄ったとき、「なんだかいい匂いがするな」と感じた経験はないでしょうか?

それ以来、ガソリンスタンドに寄るたびに、窓を開けて匂いを嗅ぐようになった方も多いかもしれません。

もちろん、ガス臭さが苦手な人はたくさんいますが、その一方で、ガソリンの匂いに魅了される人が相当数いることも確かです。

では、なぜガソリンを「いい匂い」と感じるのでしょう?

その秘密は、ガソリンに含まれるある物質にありました。

 

ガソリンを「いい匂い」に感じさせる原因とは?

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の発表によると、ガソリンは150種以上の化合物を組み合わせた複雑な混合物であり、その多くは私たちの健康にとって有害であるといいます。

その中で、ガソリンに強いガス臭を与え、それによって一部の人を魅了しているのが「ベンゼン(benzene)」です。

ベンゼンは、芳香族炭化水素の一種であり、引火性が高く、甘い芳香を持っています。

その甘い香りから、19世紀初めには、アフターシェーブや香水の成分としても使われていました。

ところが、ベンゼンに中毒性や発がん性があることが発覚し、これらの用途はすべて廃止されています。

ベンゼンを吸い込むと、あらゆる臓器(とくに肺)にダメージを与え、深刻な肺炎を引き起こすことがわかっています。

ガソリンの「いい匂い」の正体はベンゼン
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ということは、ガソリンスタンドで積極的に匂いを嗅ぐのは、危険なのではないでしょうか?

しかし、これについては心配いりません。

というのも、ガソリンに含まれる化合物はすべて、人体に無害な濃度でコントロールされているからです。

とくに、ベンゼンの含有量はきわめて少なく、ガソリン全体の1%も満たしません。

それでも、ベンゼンは非常に強烈な刺激臭を持っているため、わずかな量でも、私たちの鼻で嗅ぎわけることができます。

また、空気中で急速に蒸発するので、拡散も速く、私たちの鼻に届きやすいのです。

それでは、同じように甘い香りを放つ物質がたくさんある中で、ベンゼンの匂いに惹かれる人が多いのは、なぜでしょうか?

ガソリンを匂わずにいられない理由とは?

ガソリンの匂いに魅了される最大の理由は、ベンゼンに中毒性があり、脳に多幸感を与えるからです。

早い話が、ベンゼンを嗅ぐとハイになれるのです。

これまでの研究によると、ベンゼンを吸い込んだ場合、麻酔薬のように中枢神経系が麻痺し、脳の中脳辺縁系経路が活性化することがわかっています。

中脳辺縁系経路は、一般に「報酬経路」として知られ、ここが活性化することで「ドーパミン」が分泌されます。

ドーパミンは、”快楽ホルモン”や”脳内麻薬”の名で知られ、一時的な快感を与える神経伝達物質です。

つまり、ドーパミンにより得られる快感が中毒を引き起こすことで、何度でもガソリンを匂いたくなるのです。

ただし先ほど言いましたように、ガソリン中のベンゼンは、安全な濃度でコントロールされているので、深刻な中毒になることはないでしょう。

それでも、ベンゼンを積極的かつ直接に嗅ぐことは危険です。

ガソリンスタンドの匂い程度なら心配ない
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興味深いことに、ベンゼンを含むものはガソリンだけではありません。

私たちの身のまわりで言いますと、ペンキやマニキュア、テニスボールなどに含まれています。

もし、これらを「いい匂い」と感じたなら、ベンゼンに魅了されている証拠でしょう。

参考文献
Why Do We Like The Smell Of Gasoline?