
それは、実質所得目減りによる小売業に対する逆風が強まることです。
実質所得目減りとは、物価上昇に対して賃金・所得が追いつかず、購買力が減衰する状況を意味します。
この状況はまさに現在米国で小売業が経験している状況で、そのエッセンスは先月もご案内しました。一言で言えば、節約志向が強まり、日常品は低価格志向が強まる、非日常品消費は限られた予算をコト消費と争うことになる、という状況です。
エネルギー価格の高騰、東西新冷戦にともなうグローバルサプライチェーンの崩壊、コロナ禍などによるサプライチェーンの予期せぬ寸断の頻発、輸出競争力低下による円安継続などを考えると、インフレ基調は日本でも継続しそうに思います。
そうであれば、小売業は川上の利益を確保し、かつ消費者の望む商品を自前で管理しながら提供する必要が生まれます。また、顧客接点の強化をスマホなども活用しながら進めることも必要です。こうして売上高の増加と利益率改善を不断に追求しなければ、小売業の競争には生き残れません。
PPIHの現経営陣はこうした経営環境の厳しさを認識の上、あえて彼ららしい言語で経営方針を公表したと解釈するのが合理的だと思います。それが他社と似てきても、致し方ないのではないでしょうか。
いわば、新しい牙を生み、研いでいく、ということになります。
商いの達人を育成できるのか
とはいえ、PPIHに期待したいのは、正統的なチェーンストア戦略に対するプラスアルファの部分です。特に、商いの達人をどれだけ育成できるのか、ぜひこのポイントを注目していきたいと思います。
最後に、少し脱線しますが、PPIHは創業経営者から非創業経営者へのバトンがうまく引き継がれつつあるように思います。最近、日本電産の永守重信さんの後継者について不透明感が強まっていますが、PPIHの事例は分析に値すると考えます。何かの機会にこの話題もご案内できたらと思っています。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師
提供元・DCSオンライン
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