当面はSMRが有力だが安全審査が課題

このうち技術的に成熟して経済性が高いのは第3世代だが、受動的安全性ではSMRがすぐれている。SMRは基本的に軽水炉なので、技術的に未知の部分が少ないが、規模の経済では劣る。

ただ原子力の最大のコストは安全管理である。SMRが標準化されれば型式認定だけで量産できるので、コストは大きく削減できる。逆にいうと、日本の原子力規制委員会のように1基ずつ審査していては、SMRの優位性は生かせない。

こうした革新炉に共通の特徴は、大型軽水炉の致命的な欠点だったメルトダウンが起こらないことだ。革新炉が切り札になるかどうかはわからないが、技術的には完全に行き詰まった再エネに比べると、原子力の技術的な可能性は大きい。

コストはまだ高いが、重量あたりのエネルギーは石炭の300万倍で、ウランの埋蔵量は、海水ウランを含めるとほぼ無限大。単位面積あたりの発電量は太陽光の1000倍なので、長期的には原子力がもっとも低コストのエネルギーになる。

最大の問題は政治である。今回の資料でも「新設」という言葉は「中長期の課題」として1回出てくるだけだ。岸田首相は「新増設」という言葉を使って意欲をみせたが、どこに建設するかが問題だ。既存の原発をリプレースするとしても、地元の了解が必要である。

しかしウクライナ戦争で局面は変わった。第3世代原子炉は今でも可能なので、リプレースするなら選択肢だろう。日本は原子力のサプライチェーンが国内で完結する唯一の国である。これを維持することが、日本の製造業の競争力維持にもつながる。

文・池田 信夫/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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