奈良県の荒井知事が、まん延防止等重点措置は「効果がない」と主張し、適用要請はしないことを表明していることが話題になっています。
荒井知事は、なんの根拠もなくこのような表明をしているわけではありません。調べてみたところ、なんと去年の8月に、まん延防止等重点措置は効果がないとするエビデンスを、奈良県のホームページにおいて公開していました。
去年8月の公開資料の一部を引用してみます。
奈良県内で去年の4月~7月に、「飲食店に時短要請する市町村」と「要請しない市町村」に分けて、感染者の推移を比較していたのです。これは、コントロール群を置いた実証実験と言えます。ただ、一つ残念なことは、減少率の有意差検定を行っていないことです。有意差がないことが示されていれば完璧でした。
荒井知事は、新型コロナに対して何も対策しなくてよいと主張しているわけではありません。マスク、換気、消毒などの基本的対策を県民に呼びかけ、県独自の対策は実施しています。まん延防止等重点措置は、飲食店に負担がかかるだけで、感染対策として効果がないから、要請するつもりはないと主張しているのです。そして、実証実験の結果、その効果がなかったことをホームページで公開している点が秀逸なのです。
また、ホームページでは、奈良県のやり方が、すべての県で適切であると言えるわけではないと言及している点も、独善的でなく好感が持てます。つまり、飲食店の集中したエリアが無い奈良県のようなベッドタウン的地域においては、まん延防止等重点措置の効果は明確でないのに対して、大阪府などの繁華街が多い大都市においては、有効と考えられるとしているのです。奈良で無効が立証されたから、大阪でも無効だとするような粗雑な論理展開はしていません。
大阪府などの大都市で、本当にまん延防止等重点措置に効果があるのかどうかは、大都市が独自に実証実験を行って確かめるしかありません。それには、知事の相当な胆力が必要です。東京都や大阪府で実証実験を行うのは、奈良県よりハードルは高いのかもしれません。
以前に、「コントロール群を置いた実証実験を行うべき」と提言しました。今回、既に実証実験を行っていた県が存在することが判明して、少し嬉しくなりました。後に続く知事が増加することを、私は切に望みます。現実は複雑であり、何が正しいのか、簡単には分かりません。試行錯誤し、エビデンスを積み重ねながら、前に進むしかありません。同じことを繰り返すのは、ただの愚策です。
文・鈴村 泰/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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