高級魚介類の代名詞であるアワビ。各地で養殖が試みられてきましたが、ついに「完全陸上養殖」の技術が開発されました。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
アワビの画期的養殖技術が実現
先月、とある都内のメーカーが、高級魚介の代表格とも言えるアワビの「閉鎖循環式陸上養殖システム」を開発し、話題になっています。
閉鎖循環式陸上養殖とは、飼育槽の水を完全に浄化し再利用するタイプの陸上養殖技術のこと。水族館の水槽と同じ仕組みで、新たな海水を継ぎ足すことなく行うことができます。
![アワビを陸上で養殖する技術が開発される 粘液への対応がキモだった?](https://tsurinews.jp/data/wp-content/uploads/2022/08/20220825awabi0333.jpg)
通常の海面養殖と比べて難易度が高いとされてきたこの方法で、しかも安定生産が難しいと言われるアワビの養殖に成功したことは画期的だといえます。
実は今回このシステムを開発したのは「環境改善機器」のメーカーで、同社の汚濁除去システムを活用し、アワビの成長を阻害する水質悪化のリスクを極限まで減らせたことが成功へとつながった理由だといいます。
当然、アワビの他に魚類や無脊椎動物の養殖にも応用可能な技術で、今後様々な分野への展開も期待されています。
どこが画期的?
すでにいくつかの養殖魚種で閉鎖循環式陸上養殖が行われていますが、上記の通りアワビの養殖においてこの技術を用いるのは困難とされていました。その理由は、アワビがあまり動かないのに大量に粘液を放出すること。
アワビは水質の良い海域を好む貝で、粘液で飼育槽の水質が悪化してしまうと死んでしまうのです。そのためこれまでアワビの養殖は基本的に、海水が常に入れ替わる「海面養殖」で行われてきました。
![アワビを陸上で養殖する技術が開発される 粘液への対応がキモだった?](https://tsurinews.jp/data/wp-content/uploads/2022/08/20220825awabi02.jpg)
今回の技術では、汚濁物質を瞬時に気泡に吸着し除去できる「泡沫分離装置」というものが活用されています。加えて飼育槽の中には常に流れがあり、アワビが放出した粘液をすぐにアワビから切り離すことができます。
これらの技術の組み合わせによって、飼育槽内の水質汚濁を防ぎ続けることができます。また同時に、飼育槽水中に新鮮な酸素を送り込むこともでき、アワビにとって快適な環境を保つことができるそうです。
ここに、下水処理施設などにもあるような、微生物の力で水中のアンモニアを取り除く「生物濾過槽」を組み合わせることで、海水の完全循環が可能になるのです。
「閉鎖型陸上養殖」の難しさとメリット
いまSDGsを意識する世界的な流れの中で、魚の養殖は欠かせない技術となってきています。
しかし、一般的な海面養殖は給餌による水質汚濁、集団飼育による病気の流行を防ぐための大量の薬剤投与など、環境に対して大きな負担を強いるものとなってしまっています。そのため、これらの欠点が無い「閉鎖型陸上養殖」に大きな注目が集まっているのです。
閉鎖型に限らず陸上養殖は、設備構築や初期の研究に大きな費用と期間がかかります。加えて、海水を循環させる装置を運用するための費用も常にかかり続けることから、小さな資本でスタートするのは難しいです。
![アワビを陸上で養殖する技術が開発される 粘液への対応がキモだった?](https://tsurinews.jp/data/wp-content/uploads/2022/08/20220825awabi04.jpg)
しかし一方で環境に与える負荷はとても小さく、また常に濾過した水の中で養殖を行うために、薬剤に頼らずとも病気の発生を抑えることができるそうです。さらに、水温や酸素濃度などといった環境を調整することで成長を早めたり、ストレスを低減してより健康な個体を生産することも可能です。
難しさもありながら、それを上回るメリットもある閉鎖型陸上養殖。今後、世界のスタンダードの一つへとなっていくのは間違いないでしょう。
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<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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