昨年来、米国での証券取引委員会(SEC)とファンド業界との対立が興味深くて注目しています。

SECは5月、ESG投資に関する情報開示で統一基準を導入する規制案を出したが、この案にファンド業界が猛反発している。

SECの提案は、ESGを考慮に入れて運用するファンドに対して、運用戦略の具体的な内容や投資先企業の議決権行使などについて開示を義務付ける内容だ。社会および環境に良い影響を生み出すと宣伝する「インパクトファンド」に対してはさらに厳しく、温暖化ガスの排出量などの開示を求める。

大手ヘッジファンドを代表するロビー団体「マネージド・ファンズ・アソシエーション(MFA)」が規制案を批判する書簡を提出した。

そのなかで、MFAはSECの規制案を「ESGという言葉を無意味にするものだ」と述べた。ESGを考慮するファンドを幅広く規制対象にする現在の案だと、ファンドは膨大な情報を提出することになると指摘する。ESGがカバーする領域は広範で、すべての金融商品がESGファンドと判断され、情報開示の対象になる可能性があるというのだ。

ファンド業界側の意見、なんたる勝手な言い分でしょうか。企業に対しては膨大な情報開示を要求しておきながら、自分たちが同じことを要求されると嫌だ嫌だ、と言うのはご都合主義であり、二枚舌です。

そもそもこのSECの規制案はESG投資の実態がグリーンウォッシュだらけではないかと疑われていることがきっかけです。

米証券取引委員会(SEC)は25日、ESG(環境・社会・企業統治)投資に関する情報開示で統一基準を導入するための規制案を提案した。資産運用会社を対象に、ファンドの名称に「ESG」がついている場合はESG運用戦略とみなしてルールの順守を求める。

ESG投資が急拡大するなか、企業や運用会社による「グリーンウオッシング」と呼ばれる見せかけの環境対応が目立ち、SECは危機感を強めていた。

ESG投資と言っても構成銘柄は大企業中心で従来の投資商品と変わらないし(『SDGsの不都合な真実 「脱炭素」が世界を救うの大嘘』154頁)、CO2排出量削減などの環境パフォーマンスはむしろ悪化しているという指摘もあります。従って情報開示するのは都合が悪い、または負担が重たいのであれば、ESG投資の看板を下ろせばよいだけです。

一方で企業側は、環境報告書やCSR報告書の時代には50頁程度だったものが、現在では統合報告書として200頁にも300頁にもなる非財務情報を開示しています。さらに、こうした年次の情報開示とは別に200問~300問もあるアンケートを年間数十件も回答させられ、定例の決算発表とは別にESG情報に特化した投資家向け説明会を開催し、さらに要求を受けた機関投資家との個別のエンゲージメントにも対応しています。

企業としては膨大なリソースを投じてESG対応を行ったのですから、ファンド側から「どのESG投資商品に何%の比率で何か月間組み入れられてその間の資金調達効果はXX円でした」といった連絡があればまだ関係者は救われます。ところが、ESG投資商品に選定されたのか落ちたのかの連絡すらありません。企業に対してはESGのGとして透明性や説明責任を求めるのにもかかわらず、です。これも二枚舌ではないでしょうか。

ESG関連の流れは欧米から数か月~数年遅れで日本にも波及するため常に注目していますが、ここ数カ月間のSECとファンド業界の対立を鑑みるに、ファンド側から企業に対する個別連絡やサービス向上を期待するのは難しそうです。

文・藤枝 一也/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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