COVID-19の脅威は、消費者にさまざまな影響を及ぼしている。本稿では、感染拡大以前から継続的な調査を続けている公益財団法人吉田秀雄記念事業財団による研究支援消費者調査データを取り上げながら、COVID-19がロングセラーブランドに及ぼす影響について検討していく。
店頭での購買行動とロングセラーブランド
COVID-19の影響が生じてから3度目の夏を迎えた。ワクチン接種は3回目から4回目に移行しつつあるにもかかわらず、本稿を執筆している7月上旬現在、感染再拡大の兆候が報道され始めている。以前の日常をとりもどすまでにはまだまだ時間が必要そうである。
吉田秀雄記念事業財団による研究支援消費者調査データ(以下、「研究支援調査」)を見てみても、(注1)外出などに配慮している消費者は多いようだ。自身や家族が新型コロナウイルス感染症の対策として行っていることを尋ねたところ、「人混みになるべく行かないようにしている」との回答は、直近の2022年4月の調査においても58.66%に達した。感染拡大が始まった20年4月調査時の69.2%と比較すれば低下しているものの、高い水準で推移している様子が見受けられる。
消費者の人混みを避けようという意識は、店舗での滞在時間や購買時間の短縮化に結び付き、ロングセラーブランドの購買可能性を高めると予想される。限られた時間の中で必要な購買行動を行うためには、わざわざ新しいブランドを探索して吟味するよりも、既によく知っているブランドを継続購買したほうが効率的だからである。
消費者の購買プロセスにおける情報探索は、オンラインや店頭などにおいてさまざまな情報を取得しようという「外部情報探索」と、自らの経験やこれまでに蓄積した記憶に基づいて判断しようという「内部情報探索」に分けられる。内部情報探索といっても、記憶内にあるすべてのブランドが詳細に検討されることは稀であり、日常的な購買では3つ程度の考慮集合と呼ばれる有力候補が比較され選択されることの方が多い。考慮集合に含まれるためには、強く適切な記憶が構築されていなくてはならない。過去の使用経験はその最たる例である。
「研究支援調査」では、特定のブランドの継続購買傾向を5つの項目から尋ねている。COVID-19の影響が生じる以前の2019年4月、22年4月のいずれの調査にも回答してくれた参加者に注目すると(N=2089)、22年4月の方が特定ブランドを購入し続ける傾向が強くなっている(図1a)。COVID-19の影響下において、消費者の内部情報探索や考慮集合に基づいた購買決定が増えている証左であろう。
ロングセラーブランドは消費者に何らかの形で記憶されていることが多い。考慮集合の考え方を踏まえ、消費者の購買場面において検討対象となるように導いていくことができれば、COVID-19による購買時間の短縮傾向を追い風とすることができるはずである。