「絆創膏」は傷口を覆うのに便利ですが、時間が経つにつれて「ヘタって」はがれやすくなります。
カナダ・マギル大学(McGill University)機械工学科に所属するシェンウェイ・マ氏ら研究チームは、超音波によって粘着力を制御できる組織接着剤を開発しました。
これにより、生体への接着強度を調整可能なテープが利用可能となり、ヘタっても粘着力を回復できる絆創膏なども作られるかもしれません。
研究の詳細は、2022年8月11日付の科学誌『Science』に掲載されました。
超音波と気泡で粘着剤を組織に押し込む新技術
テープや絆創膏が物体や人体に貼りつくのは、粘着剤が働いているからです。
物体や人体の表面は凸凹なため、2つの表面を近づけただけではたくさんの隙間が生じてしまい、くっつくことができません。
しかし2つの表面の間にネバネバとした粘着剤を挟むなら、たくさんの隙間が埋まります。
これにより表面同士が分子レベルで近づき、高い吸着力が生まれるのです。
この吸着力には、上図のようないくつかの効果が複合的に働いていると考えられています。
ちなみに、粘着剤は柔らかい状態を維持するもので、接着剤は接着してから固化するものを指します。
そのため、何らかの理由で上記の効果が弱まったり、隙間を埋めきれなくなったりするなら、その粘着力(もしくは接着力)は弱まることになります。
シェンウェイ・マ氏ら研究チームは、超音波と小さな気泡によって、この粘着力を高める方法を開発しました。
まず、ポリアクリルアミド、ゼラチン、セルロースナノクリスタル(ナノサイズの結晶状セルロース)などでつくられた専用の粘着剤を作成。
そして、この粘着剤に超音波を当てると非常に小さな気泡が発生します。
発生した気泡には粘着剤の分子を生体組織内に押し込む効果があるため、粘着剤が皮膚に対してアンカーのように入り込んで隙間も埋めます。
これにより、化学結合に頼らずとも非常に強い粘着効果が得られるようです。
つまり新しく開発された絆創膏に超音波を当てるなら、粘着力を高めたり、弱まった粘着効果を復元したりできるのです。
研究チームは、「濡れた皮膚に絆創膏を貼りたいときにも役立つ」と述べています。
ラットを使った実験では、この新しい粘着剤がラットの生体組織に適合することも分かりました。
そしてこの技術は、傷口を覆う「絆創膏」以外への応用が可能だと考えられています。
今回の技術を利用するなら、超音波と気泡で薬剤を生体組織に押し込む「新しい薬剤送達」を開発できるかもしれないのです。
研究チームは、「今回の研究は組織修復、がん治療、精密医療につながり、医学の幅広い分野に大きな影響を与えるでしょう」と興奮気味に語っています。
提供元・ナゾロジー
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