陽子に含まれるチャームクォークは陽子よりも重い
今回の研究では、陽子におけるチャームクォークの影響度も算出されています。
陽子にチャームクォークが存在する場合に、どれほどの影響度になるかは、単なる重量比率を超えた極めて重要な問題です。
というのも、チャームクォーク1個の重さは、陽子よりも重いからです。
陽子より重い素粒子が陽子に入っていると考えると、頭がこんがらかりそうになるかもしれません。
しかし量子力学において、粒子は確率的にしか存在できないという大原則があるため、この混乱は回避できます。
量子力学の領域にある粒子の多くは存在する場合と存在しない場合が重ね合わさっており、観測によってはじめて状態が確定するのが基本となっています。
つまりある時点で陽子の内部を調べた場合にはチャームクォークは存在しないものの、別の状況で調べた場合には、チャームクォークが存在しているという結果が得られるため、観測された素粒子の質量を真面目に加算して陽子の質量と比べることにあまり意味はないのです。
なにやら煙にまかれたような、屁理屈のような話に聞こえますが「確率的にしか物体が存在できない世界」では、日常生活レベルでの足し算や引き算が上手く機能ないことがよくあります。
一方で、陽子に内在するチャームクォークが一定確率で検出され続ける場合、陽子の内部には陽子に属するチャームクォークが「ある」と結論されます。
確率的にしか物体が存在できない世界では、一定確率で検出されることが存在の根拠となりえるからです。
(※検出される確率は同じ実験条件ならば一定の数値に収束します)
またチャームクォークが存在する場合の影響力を調べたところ、チャームクォークは陽子全体の運動量のうち約0.5%を占めていることが示されました。
研究者たちは陽子の基本構造を正しく理解することは、続く他の実験にも影響を与える可能性があると述べています。
たとえば、宇宙線が大気に衝突してニュートリノを生成する確率は、陽子に含まれるチャームクォークの存在に非常に敏感であると考えられます。
人工知能が物理学を切り開く

今回の研究により、宇宙で最もありふれた存在である陽子にはチャームクォークと反チャームクォークが存在する可能性が、ニューラルネットを用いて示されました。
無数の異なる実験条件と観測結果を学習することでニューラルネットは、陽子の内部に内在的なチャームクォークがある場合とない場合では、ある場合のほうが妥当性が高いと判断したのです。
また分析結果をもとに結論の強固さを調べたところ、陽子に内在的なチャームクォークが存在する可能性は99.7%の確かさ(3σ)と算出されました。
類似の人工知能を用いた研究はヒッグス粒子の発見にも役立てられた業績があり、今後の物理学において人工知能による導きは重要となっていくでしょう。
ただ一般に物理学において新しい素粒子を発見したと表現できる基準は「99.9999%の確かさ(5σ)」とされています。
このため3σで確認された場合は、結果について「兆候が見られる」という表現に抑えられます。
研究者たちも、最終的な結論を出すには、より多くのデータが必要であると述べています。
しかし結論が正しければ、陽子が本質的に含んでいる素粒子として、新たにチャームクォークと反チャームクォークの存在が新たに教科書に書き加えられるでしょう。
参考文献
Protons contain intrinsic charm quarks, a new study suggests
元論文
Evidence for intrinsic charm quarks in the proton