ナディールはチクシュルーブの「妹 or いとこ」?

ナディール・クレーターの年代を調べたところ、興味深いことに、約6600万年前の白亜紀末に衝突したチクシュルーブ隕石と同年代であることがわかりました。

この点から、チームは「2つの隕石の間には、非常に深い関係があるのではないか」と考えています。

現時点でチームが挙げているのは、主に2つの仮説です。

1つ目は、2つの隕石が母体となる小惑星から分裂してできた姉妹であり、大きい方がチクシュルーブ(姉)、小さい方がナディール(妹)という説です。

チームはこれを「小さな姉妹仮説(little sister hypothesis)」と呼んでいます。

研究者は、母体の小惑星が地球に最接近し、十分な重力を受けるエリアに入ったときに分裂が生じ、チクシュルーブとナディールが生まれたと考えます。

もしそうであれば、チクシュルーブ衝突の被害が、続くナディールの追い打ちによって、さらに拡大したかもしれません。

同じ小惑星から分裂してできた「姉妹」?
Credit: canva

2つ目は、チクシュルーブとナディールが、太陽系の小惑星帯(アステロイドベルト)の中にあった、大量の隕石群の一つであったという説です。

研究者は、これを「姉妹」に対して、「小さないとこ仮説(little cousin hypothesis)」と呼んでいます。

というのも、今回示されたナディールの衝突年代は、完全に正確なものではなく、チクシュルーブとは最大で100万年程度の誤差が考えられると指摘されています。

となると、両者が同じ小惑星の片割れであるとは考えられません。

しかし、小惑星帯から飛来する隕石群であれば、100万年というスパンの中で、隕石が複数回にわたり地球にぶつかることもあり得ます。

ナディールとチクシュルーブは小惑星帯の中の「いとこ」か?
Credit: canva

研究チームは、このいずれの説(あるいは全く別の説)が正しいかを判断するには、ナディール・クレーターから実際に堆積物サンプルを採取し、物理的な調査をする必要があると話します。

すでに、2023年に現地でのクレータ掘削プロジェクトを計画しているとのことです。

もし、チクシュルーブとナディールの姉妹仮説が正しければ、恐竜を絶滅させた隕石には”幻の2発目”があったことが証明されるでしょう。

参考文献
A Mysterious Crater Found in The Ocean May Be A New Clue to The Dinosaurs’ Fate
A second asteroid may have crashed into Earth as the dinosaurs died

元論文
The Nadir Crater offshore West Africa: A candidate Cretaceous-Paleogene impact structure