「会話中に自然と身振り手振りが出てしまう」ことはあるものです。
実際、インタビュー記事の写真には、著名人が手を動かしながら説明している瞬間が収められています。
こうした写真は、「IT業界の社長はろくろを回す」などとコミカルに表現されることもありました。
そして最近、大阪公立大学大学院現代システム科学研究科に所属する牧岡 省吾(まきおか しょうご)氏ら研究チームは、手を拘束すると、意味を処理する脳活動と言語化の速度が低下すると報告。
「手の動き」と「言葉の意味を処理すること」には、密接な関連性があったようです。
研究の詳細は、2022年8月8日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
記号の概念を理解するには?
私たち人間は、「言葉」からその意味を悟り、現実世界のさまざまな要素と結び付けます。
例えば、「カップ」という文字列を見ると、私たちはすぐにそれが「飲み物を飲むための容器」だと理解できます。

それだけでなく、カップの「大きさ」「形状」「硬さ」などの概念も理解できています。
加えて、「カップを手で持って口に運ぶ動き」や「カップを落としたら割れてしまう」という関連要素も無意識のうちに思い出していることでしょう。
だからこそ、文字列を見るだけでカップをイメージできますし、実際にカップを使うこともできるのです。
このように、記号を現実世界に結び付けることを「記号接地(記号着地もしくはシンボルグラウディングとも言う)」と言います。
人間は記号接地を難なくこなしていますが、AIに同様の処理を行わせるのは難しいとされています。
スワヒリ語を知らない人にとって、「kikombe」という言葉が単なる記号にすぎず、何もイメージできないのと同じで、AIに「カップ」または「kikombe(和訳:カップ)」という文字列を投げかけても、その概念を理解できないのです。
では、何も知らないAIに記号接地を行わせるにはどうすれば良いでしょうか?
1つのアイデアとして「人間と同様の手順を踏む」というものがあります。

私たちは幼い時に初めて「カップ」という言葉を聞きました。
そして両親に意味を教えてもらい、実物を見て、実際に使ってみました。カップを割ったり、間違った持ち方をしてミルクをこぼしたりすることもあったでしょう。
そうした身体を使った経験が、幼児の脳にカップの概念を理解させ、さまざまな要素と相互に関連付けてきたとも考えられるわけです。
同じようにAIにも身体を与えて経験を積ませるなら、記号接地の問題を解決できるかもしれません。
しかし、そうした研究を行う前に、はっきりさせておくべきことがあります。
「人間にとって身体を使うことは、本当に言葉の意味を処理したり記憶したりするのに役立つのか?」という疑問です。
牧岡氏ら研究チームは、この点に焦点を当てた研究を行いました。