現在、世界中で扱われるデータ総量は、指数関数的に急上昇を続けています。
近い将来、人類は保存可能な容量よりもはるかに多くのデータを生産する時代になると懸念されています。
カリフォルニア大学アーバイン校の研究チームは、この問題に対してDNAを利用した新しいデータストレージを提案しています。
彼らはDNAよりも損傷に強いTNA(トレオース核酸)を用いて、1分子に独立宣言文と大学のロゴを格納し、また読み取ることに成功したといいます。
目次
加速的に増え続ける世界のデータ総量
壊れないDNAのデータ保存
加速的に増え続ける世界のデータ総量
IT専門調査会社IDCの報告によると、2020年の全世界のデータ総量は約59ゼタバイト(ZB)にのぼると推定されています。
ゼタバイトというのは、馴染みのない単位ですが、1ゼタバイト(ZB)=10億テラバイト(TB)=1兆ギガバイト(GB)です。
これでもまだあまりピンと来ませんが、データを収容するには、物理的にどのくらいの広さが必要になるのでしょうか?
たとえば10億ギガバイトのデータを収容しようと考えた場合、現在の技術では約140万平方メートルの面積が必要になると言われています。
近い広さをあげるとすれば、皇居の全面積115万平方メートルと言われているので、皇居全域を利用しても10億ギガバイトすら収められないということになります。
ちなみに10億ギガバイトは0.001ゼタバイトです。
「いずれ、人類は保存できるよりも多くの情報を作成するようになるでしょう。そのとき、私たちには何ができるでしょうか?」
そう語るのは、今回の研究チームを率いるカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の分子生物学者ジョン・シャプー教授です。
彼のチームは増え続けるデータ量の問題を解決するべく、人工的に合成したDNAを利用して、半永久的なデータストレージを開発する研究を進めています。
情報を遺伝的データに変換するという研究は比較的新しい分野です。
DNAにデータを記録したり、DNAからデータを復元できるようになったは、わずか8年前のことです。この分野のもっとも大きな進歩はこの2年間のことで、コストや時間の面で急速進歩しました。
ただ、DNAをデータストレージに使うという方法には決定的な問題点がありました。
それはDNAが非常に脆い、という問題です。
今回の研究のメインは、1つにこの脆いDNAを改善して半永久的な保存媒体に変えたという点にあります。
壊れないDNAのデータ保存
医療関連の話を聞いているとわかりますが、DNAは本質的に壊れやすい分子であると言えます。
それは自然界に存在する多くの酵素や、日光に含まれる紫外線などでも簡単に壊され、ほとんどの酸で分解されてしまいます。
このDNAの脆さが、長期的な実用性のあるデータ保存方法として障害となっていたのです。
そこでシャプー教授らが考えたのが、DNA(デオキシリボ核酸)の代わりに、よく似た別のトレオース核酸(TNA)を使うというものでした。
TNAはDNAに比べてはるかに丈夫で、分解されにくい性質を持っています。
TNAもDNAと同様の「A: アデニン」「C: シトシン」「G: グアニン」「T: チミン」をもつヌクレオチドで構成されています。
通常データは、1と0のバイナリコードで構成されています。しかし、遺伝情報を構成する分子は、それよりずっと複雑です。
研究では、二進法のデータを、DNAで使用される4文字のヌクレオチドコードに変換して、効果的にデータを転写する方法を見つけ出しました。
そして、2つの配列をつなぐ特殊な酵素を使うことで、ゲノム配列をもとの2進数配列に戻すことに成功したのです。
これを強固な人工遺伝子ポリマーTNAを用いて行うことで、強固でかつ低エネルギー、高密度なデータ保存を行えるようになりました。
この方法は、単なるコンセプトではなく、実際にチームはこのTNA溶液にアメリカ独立宣言文と、彼らの大学UCIのロゴを実際に転写して、その後、そのデータを読み取って再生させるテストを行っています。
このTNAという媒体は、恐ろしく複雑なため、非常に高密度で情報を保存することが可能になるのだと言います。
研究チームは、理論上たった半カップのTNA溶液を用いれば、そこにこれまで人類が歴史の中で書いたすべての本、すべての楽曲、Instagramに共有されているすべての写真を保存できる可能性があると示しています。
この方法が実現されれば、増え続けるデータ量の問題から人類は開放され、はるかに低コストで大量のデータ保存が利用できるようになるのかもしれません。
提供元・ナゾロジー
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