淡水性の緑藻である「マリモ」は、北半球に広く分布します。
一方で、よく知られる丸いマリモがいるのは、北海道の阿寒湖とアイスランドのミーヴァトン湖の2ヵ所のみ。さらに、直径が30センチを超える巨大なマリモは、地球上で阿寒湖にしか存在しません。
一般にマリモは、巨大化しすぎると、波に転がされて壊れるリスクが高くなります。
それなのに、なぜ阿寒湖のマリモは安定して巨大化できるのか、長年の謎となっていました。
しかし今回、国立遺伝学研究所、釧路国際ウェットランドセンターの研究により、マリモに共生するバクテリアがその鍵を握っていたことが明らかになったようです。
研究は、6月13日付けで科学誌『iScience』に掲載されています。
巨大化は「共生するバクテリア」によって可能になっていた
球状に丸くなるマリモには、主に2種類あります。
ひとつは、藻の長い糸状体が絡まってできる「てん綿型」、もうひとつは、糸状体が中心から放射状に並ぶ「放射型」です。
どちらになるかは生息環境で決まりますが、巨大化するのは「放射型」のみです。
マリモは、波に揺られて湖底を転がることで巨大化しますが、それに伴って中心部は空洞化します。
直径が10センチ以上になると空洞が形成され、大きくなるほど壊れやすくなります。
では、なぜ阿寒湖のマリモは、直径が30センチを超えるほど安定して巨大化できるのでしょうか。
研究チームは今回、阿寒湖に生息する大小さまざまのマリモを対象に、内部に共生するバクテリアの種類を比較調査しました。
具体的には、バクテリアが持つ「リボソームRNA遺伝子」の塩基配列を解析します。
リボソームはすべてのバクテリアに存在し、RNAとタンパク質からなります。しかし、RNA遺伝子の塩基配列はバクテリアごとにわずかに違っており、この差をもとにバクテリアの種類が特定できます。
その結果、マリモの大きさによって、共生するバクテリアの種類も違うことがわかったのです。
とくに直径20センチ以上になったマリモには、深層〜表層にかけてバクテリアが層状に分布していました。
深層には、栄養源であるチッソの循環にかかわるバクテリアや、火山性の湖である阿寒湖に多い硫黄化合物をエネルギー源にするバクテリアが見られました。
表層には、シアノバクテリア類が存在し、光合成を通じて、マリモに栄養素を供給していたようです。
さらにシアノバクテリア類は、マリモの内部に粘着性のバイオフィルムを作る能力があると判明しました。
マリモの内部には、湖底の砂礫を取り込んだ茶色い層がありますが、この層内のバイオフィルムが砂礫を取り込み、藻の密着性を高めていたのです。
また、マリモの中心部の空洞には湖水がたまっていますが、そこから外にはわずかしか漏れ出ません。
こうしたマリモの気密性や巨大化を支える強度は、バクテリアによってもたらされていると考えられます。
もし巨大化しすぎてマリモが壊れても、層の並びやバクテリアは断片として受け継がれるため、マリモはすぐに再生し、また巨大化できるのです。
今年は、1921年に阿寒湖のマリモが1天然記念物に指定されてからちょうど100年目になります。
今回の成果は、阿寒湖にしか見られない巨大マリモの保護や生息環境の回復に役立つ貴重な研究となります。
参考文献
マリモ巨大化の謎に迫る ―阿寒湖のマリモを育む微生物たちー(国立遺伝学研究所)
元論文
Internal microbial zonation during the massive growth of marimo, a lake ball of Aegagropila linnaei in Lake Akan
提供元・ナゾロジー
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