人間と機械のよりスムーズな接続に利用できそうです。
中国の南京医科大学で行われた研究によれば、本物のニューロンが行っている神経伝達物質の送受信を再現する、新たな人工ニューロンを開発することに成功した、とのこと。
新たに開発された人工ニューロンは単に電気信号を中継するだけでなく、本物のニューロンと同じように神経伝達物質での情報伝達が可能であり、生きている脳細胞や運動神経と相互作用することも可能でした。
人工ニューロン技術が進歩すれば、体が麻痺した人々の神経を繋いだり、パワードスーツなど人工装具の駆動部品に信号を送るなど幅広い活用が見込めます。
しかし神経伝達物質のような「生もの」を人工ニューロンはどのように制御しているのでしょうか?
研究内容の詳細は2022年8月8日に『Nature Electronics』にて掲載されています。
目次
本物のように神経伝達物質を送受信できる新型「人工ニューロン」が開発!
人工ニューロンでマウスの足を動かすことにも成功
本物のように神経伝達物質を送受信できる新型「人工ニューロン」が開発!
脳科学の進歩により、脳と機械を直接つなぐ「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」が実現しつつあります。
ブレイン・マシン・インターフェースは脳の電気活動を収集して機械に伝達することで思考を直接、機械の動きに反映することが可能となります。
たとえば以前に行われた研究では、脳波や脳に埋め込まれたチップから脳の電気活動を収集し、脳波だけで遊べるゲームや体が麻痺した人々が脳内チップを介してロボットアームで食事が可能になったことが報告されています。
しかし現実のニューロンは電気信号だけでなく神経伝達物質を用いて情報を伝達しています。
そのため電気信号に偏重した現在のシステムでは、ニューロンの送受信する情報の解釈を誤る可能性がありました。
そこで今回、南京医科大学の研究者たちは本物のニューロンのように、神経伝達物質の送受信の機能を加えた新たな人工ニューロンを開発することにしました。
研究にかかわったBenhui Hu氏は「脳の母国語は化学言語ですが、現在のブレイン・マシン・インターフェースは全て電気言語を使用している。そこで今回私たちは、本物のニューロンのコミュニケーション方法を再現する人工ニューロンを考案しました」と述べています。
しかし本物のニューロンのような仕組みを持つには、①神経伝達物質の検知、②シナプスの可逆性、③神経伝達物質の分泌という3つの過程を経なければなりません。
(※本物に似たニューロンを作るには、くっついたり離れたりする(可逆性のある)シナプスを作る機能も必要です)
研究者たちはいったいどんな方法で3つの過程を盛り込んだのでしょうか?
人工ニューロンでマウスの足を動かすことにも成功
いったいどうやって本物のニューロンの持つ3つの仕組みを再現したのか?
研究者たちは上の図のように、人工ニューロンを3つの部位にわけました。
そして一方の端(図の左)に、グラフェンとカーボンナノチューブからなる電極で作られたドーパミン検知センサーを配置しました。
ドーパミンが十分量検知されると、中央のメモリスタと呼ばれる部分が反応し、もう一方の端(図の右)に配置されたドーパミンを含んだヒドロゲルが熱されて、ドーパミンが放出されます。
つまり神経伝達物質であるドーパミンを受け取り、放出することができる仕組みを作ったのです。
人工ニューロンが完成すると、研究者たちはさっそく生体でのテストにうつります。
最初のテストはラットの脳細胞でした。
研究者たちが人工ニューロンの左右端をラット脳細胞に接続すると、脳細胞から分泌されたドーパミンが人工ニューロンに流れ込み、人工ニューロンから脳細胞にドーパミンが分泌され、さらに脳細胞からドーパミンが分泌されるループ回路が構成されました。
また上の図のように麻酔で眠らせたマウスの肢の神経に人工ニューロンをつなげ、ドーパミン検知センサーにドーパミンを与えたところ、マウスの運動神経を刺激して肢を動かすことに成功しました。
これら脳細胞と肢に対する実験により、人工ニューロンが生体適合性を持つことを示します。