タツノオトシゴは、小さくて泳ぎベタな生き物ですが、不思議なことに世界各地の海で見られます。

「移動力に長けていないにもかかわらず、どうして世界中に広がることができたのか。」

このナゾを解くべく、ドイツ・コンスタンツ大学の研究チームは、タツノオトシゴ21種から約360のゲノムを解析して、進化系統樹を作成。

それをもとに、世界の海への分散経路と、遺伝的変異を調べました。

その結果、「海流」による運搬と、環境への「適応力」という、2つのキーワードが浮かび上がっています。

研究は、2月17日付けで『Nature Communications』に掲載されました。

目次

  1. 遺伝子の進化スピードが異常に速いことが判明

遺伝子の進化スピードが異常に速いことが判明

タツノオトシゴ属(Hippocampus)は、約2500万年前のインド太平洋域で、最も近縁のヨウジウオ(Pipefish)から派生しました。

泳ぎの得意なヨウジウオに対し、タツノオトシゴ は腹ビレと尾ビレを失くし、代わりに、海藻やサンゴをつかむのに適した尾を進化させています。

最初は大きく2つのグループに分かれました。

研究チームのラルフ・シュナイダー氏によると「一方は、生まれた場所に留まり続けたグループ、もう一方は、アフリカ・ヨーロッパ・アメリカを経由して太平洋にまで広がったグループ」とのこと。

泳ぎベタな「タツノオトシゴ」が世界各地に広がれた理由を解明! 「海流」と「適応力」がカギ
タツノオトシゴの祖先の「ヨウジウオ」 / Credit: smithsonianmag(画像=『ナゾロジー』より 引用)

両グループを含む対象種から作成された今回の系統樹は、タツノオトシゴの種間関係や、分散経路について信頼性の高い結果を示しています。

まず、海流と種分布の関係を比較すると、タツノオトシゴは明らかに波に乗って各地に運ばれていました。

例えば、大しけの場合、荒波の中に投げ出された個体は、手近にある海藻や木片などにつかまり、時には数百キロの距離を流されます。

また、過去2500万年の間の大陸移動によって起きた海流の変化も、移動に大きな役割を果たしていました。

これによって、タツノオトシゴは世界各地の海に移動できたと見られます。

泳ぎベタな「タツノオトシゴ」が世界各地に広がれた理由を解明! 「海流」と「適応力」がカギ
タツノオトシゴの系統樹と分布場所 / Credit: novataxa(画像=『ナゾロジー』より 引用)

さらに、各生息地から20匹ずつサンプルを採捕し、同じ生息域における個体間の遺伝的変異も調べました。

すると、遺伝的なバリエーションが大きいほど、その地の個体数も多くなることが判明しています。

それから、タツノオトシゴは、海流に乗って世界中に広がっただけでなく、新しい生息地に驚くほどよく定着していました。

遺伝データを分析すると、彼らは移動の中でゲノムを大幅に改変しており、たくさんの遺伝子を失くしたり、新たに獲得しながら進化していることが分かっています。

これはつまり、タツノオトシゴが他の生物に比べて、非常に短いスパンで進化できるということです。

シュナイダー氏は「こうした海流の力と遺伝的変化の速さ、それによる適応力の高さが、広いエリアでの繁栄を可能にしたのでしょう」と結論しています。


参考文献

How sessile seahorses speciated and dispersed across the world’s oceans in 25 million years

元論文

Genome Sequences reveal Global Dispersal Routes and Suggest Convergent Genetic Adaptations in Seahorse Evolution


提供元・ナゾロジー

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