リセッションは本当にやってくるのか?、と言われて明白に理由づけて答えられる人はいません。いろいろなデータを基にああでもない、こうでもないという議論は進んでいますが、非常に専門的な分野の一面から見たつぶやきをメディアや一般人がその言葉だけを切り取り、独り歩きすることもあり、扱いは要注意です。
一方、お前は秋が怖いと言い続けているじゃないかというご指摘もあると思います。あくまでも可能性の問題でありますが、私は長い投資人生の中で87年10月のブラックマンデー(ダウが1日にして22.6%下落)から始まり、日本のバブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマンショック、コロナ危機と数多くの修羅場、そしてその多くは逃げ損ねたことを含め、経験値の中で怪しい匂いは案外感じ取れるようになったのです。
その経験値が実ったのか、リーマンショックの時は起こるべくして起きたな、という気もしていました。同ショックは不動産絡みでしたので私の生業でもあります。当時の不動産相場を見ていてアメリカを中心にあり得ないほど高くなった不動産、そして猫も杓子も誰でも不動産を買えたことに疑念があったのです。上がるから買う、物件の価値が上がれば銀行は担保資産の見直しをしてローンを上乗せ、その泡を手にした人々は車や家財を買うというまさに幻想とも思える狂った世界を見たのです。しかし2008年リーマンショックより1年以上前にその不動産価格はピークを迎え、宴の後は目に見えていたのです。つまり、本当の恐怖はピークをつけてからしばらくするとやってくる、ということです。
ウォーレンバフェット氏が6月頃、オキシデンタルという石油株にご執心になったという報道を見てバフェット氏にしては珍しい過ちを犯したのではないか、と見ました。石油価格は長期的な需給で見ると70㌦前後が妥当価格で景気の状態で40㌦から100㌦あたりまで幅のある動きをします。コロナの際のマイナス価格とか先日の130㌦越えというのは確率論からすると極めてまれなケースであります。その観点からすればバフェット氏が手を出したのは一番ピークだったのではないか、という疑念があるのです。
景気が後退するかどうかは様々なファクターが影響しますが、私が重視しているのは人々の興味やパッションの温度を見ています。言い換えるとどれだけブームになってもそれがずっと続くことはなく、必ず落ちる時が来るのと同様、景気もずっと同じ温度であることはないわけです。ではお前の考える温度はどうなのか、といえば20年春先をボトムにして2年上向きだったのです。但し、この2年は自律の景気回復ではなく政府などに支援された回復だった点で過去のケースと違うのです。つまり、真の意味での好景気ではない状態とも言えます。
日経に非常に興味深い記事があります。「米失業率3.5%、喜べぬ半世紀ぶり水準 非労働力が増加」という内容で、ポイントは毎月発表される雇用統計に疑念があり、かなり膨れた数字ではないかというものです。理由は「アルバイトの怪」であります。雇用統計はあくまでも雇用者数を捉えたもので、それはフルタイムとパートタイムの合算です。問題はパートタイムで、バイトの掛け持ちはダブルカウントやトリプルカウントがあり得るのではないか、という訳です。そしてアメリカ労働省が発表する家計調査では22年3月をピークに雇用は横ばいとなっているというのです。
仮にこの疑念が正しいのであれば景気はやはりすでにピークを打っているとみるべきです。株価は21年11月頃に概ねピークを打っていますが、株価が大体3-6か月の先行指標ですので上記の家計調査とはタイミング的には一致します。雇用統計は遅行指標ですので「こと」が起きてからしばらくして反応する統計である点を考えるとFRBが読み違いをしている可能性は無きにしも非ずです。私がdownturn(不況)に向かっているという見方はそこにあります。
では秋のショックはあるのでしょうか?いわゆるショックというのは足元がぬかるんでいるときに思いもしない穴に落ちることを言います。リーマンショックは住宅市況がピークを打って1年以上たってからリーマンブラザースが倒産したことに端を発しています。その点では今は足元がぬかるんでいる中でFRBをはじめ、日本以外の各国中央銀行は利上げに忙しい状態であり、実に怪しいとみています。
ではどこが危険なのでしょうか?一つは侵略を止めないロシアそのものの経済力、もう一つはその相手国のウクライナのダメージですが、私が最近特に注目しているのは中国経済です。経済指標はどれもあり得ないほどの悪化ぶりです。その状況で中国が今、台湾に手を出すかといえば出せないと断言します。理由はその結果、西側諸国から厳しい経済制裁を受ければ、中国は完全に行き詰るからです。逆に言えば中国が台湾に手を出せば世界経済はショックどころではないとてつもない大混乱が待ち受けることになります。それこそ、その時点で石油価格は50㌦をあっさり割り込むようなそんな衝撃となるはずです。アメリカの投資ファンドが続々清算しなくてはいけないかもしれません。
リセッションと経済ショックは別物として捉える必要があります。ただし、リセッションが経済ショックを誘発する公算はあるということです。そしてそれは誰も予想しえないことだとも言えます。
夏だからと言って世にも恐ろしい物語を書くつもりはありません。起きないことを祈りながらも世の中の経済の動きが実にかみ合いの悪い状態である点だけは皆さんと共有したいと思った次第です。
では今日はこのぐらいで。
文・岡本 裕明
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月8日の記事より転載させていただきました。
文・岡本 裕明/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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