先日、アメリカのSNS上で「科学者がホウレンソウにメール送信の仕方を教えた(英文)」と話題になりました。

この元ネタは、マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発した「爆発物を探知できるホウレンソウ」にあります。

このホウレンソウは、地中の爆発物を検出すると、それを電子メールで知らせてくれるのです。

どうしてそんなことが可能なのでしょうか。

研究の本論文は、2016年に『Nature Materials』に掲載されています。

目次

  1. 根っこから吸収した爆発物に反応して、メール送信!

根っこから吸収した爆発物に反応して、メール送信!

MITのストラノ・リサーチ・グループは、ホウレンソウに爆発物の探知機能をもたせるため、ナノテクノロジーを応用しました。

ナノの世界は非常に小さく、1ミリの1000分の1が1マイクロメートル、それをさらに1000分の1したのが1ナノメートルとなります。

ここでは主に2つのナノテクノロジーが使われており、1つは、地中の爆発物に反応するための「ナノセンサー」、もう1つは、探知を知らせるための「カーボンナノチューブ」です。

ナノセンサーは、ホウレンソウの葉にナノ粒子を埋め込んで、爆発物の主な原料である「芳香族ニトロ化合物」に反応します。

カーボンナノチューブは、葉裏の葉肉層に配置され、ニトロ化合物に反応すると特殊な光(信号)を放ちます。

研究チームは、ホウレンソウの近くに赤外線カメラを設置し、この信号を捉えると自動で電子メールを送信してくれるシステムを作りました。

爆発物を検出して、メールで知らせてくれる「ホウレンソウ」が話題に(MIT)
(画像=検知〜送信までの流れ(上)、化合物に反応した光信号(下) / Credit: nature、『ナゾロジー』より 引用)
爆発物を検出して、メールで知らせてくれる「ホウレンソウ」が話題に(MIT)
(画像=ホウレンソウから送られてきたメール / Credit: youtube、『ナゾロジー』より 引用)

実証テストでは、ピクリン酸というニトロ化合物を用いて実験されています。

結果、ホウレンソウはピクリン酸を含んだ地下水を吸収して、約10分でナノセンサーのある葉っぱまで運び、異物検出をメールで送信することに成功しました。

しかし、なぜホウレンソウでなければならなかったのでしょう?

研究主任のマイケル・ストラノ氏は「植物は土壌の小さな変化にも敏感に反応し、化合物の検知に優れた化学アナリストだから」と話します。

「中でもホウレンソウは、地中に根を張る範囲が広く、絶えず地下水を吸収して葉っぱに運んでいるので、爆発物の探知に最適である」と続けます。

また、訓練された犬やラットに比べてホウレンソウは軽いので、地雷に引っかからないという利点もあるでしょう。

植物とナノテクを融合した技術は「植物バイオニクス」と呼ばれ、爆発物以外でも、さまざまな土壌汚染の検知に有用です。

ストラノ氏は「植物バイオニクスは、人と植物との間に立ちはだかるコミュニケーションの壁を超える技術として、今後さらに発展していくでしょう」と述べています。

参考文献
MIT Scientists Hack Spinach Plants to Send Emails
Scientists Create Spinach That Can Test For Bombs
Scientists Have Finally Taught Salad To Send Out Emails
元論文
Nitroaromatic detection and infrared communication from wild-type plants using plant nanobionics

提供元・ナゾロジー

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