人間の特徴は親から子へと受け継がれていくものですが、人間としての基本的な構造は大きく変わらないでしょう。
ところがいくつかの人体調査は、その時代に応じた特徴や変化の傾向を明らかにする場合があります。
オーストラリア・フリンダース大学考古学部のテガン・ルーカス氏は、9月10日付けの解剖学誌『Journal of Anatomy』で、前腕を通る動脈の変化について言及しました。
彼によると、前腕に時折存在してきた第三の動脈が近年増加しているとのこと。
目次
第三の前腕動脈「正中動脈」とは?
第三の前腕動脈をもつ人が近年増加しているかも
第三の前腕動脈「正中動脈」とは?
人間の前腕には、肘と腕を繋ぐように2つの大きな動脈が走行しています。
これらはそれぞれ、橈骨動脈(とうこつどうみゃく、英: Radial artery)と尺骨動脈(しゃくこつどうみゃく、英: Ulnar artery)と呼ばれています。
そして、2つの動脈の間に正中動脈(英: median artery)と呼ばれる別の動脈が時折存在しているようです。
正中動脈は通常、妊娠8週ごろの胎児の段階で退行するものとみなされています。
これは胎児の前腕と手に血液を供給する主要な血管として働くのですが、橈骨動脈と尺骨動脈が発達するとその役割が取って代わられるため、正中動脈自体が消えるのです。
ところが、時折大人になってもそのまま正中動脈が残っているケースが報告されてきました。
例えば、1880年代半ばに生まれた人の約10%が大人になってもこの正中動脈をもっていたとのこと。
ちなみに時折存在するこの正中動脈は人に健康リスクをもたらすことはないようです。
第三の前腕動脈をもつ人が近年増加しているかも
そしてルーカス氏らの研究によると、近年正中動脈をもつ人の割合が増えているとのこと。
実際、2015年から2016年の間に死亡した51歳から101歳のオーストラリア人から得られた78本の上肢からは、合計26本の正中動脈が発見されました。33.3%の人が正中動脈をもっていたことになるのです。
以前のデータと比較するなら、数十年~百年ほどの間に正中動脈を持つ人の割合が10%から30%にまで増加していると考えられますね。
ちなみにルーカス氏は正中動脈の増加傾向の原因について「正中動脈の発達に関与する遺伝子の突然変異や妊娠中の母親の健康問題、あるいはその両方に起因している可能性がある」と述べています。
また研究チームの一員であるチューリッヒ大学進化医学研究所のマチュイ・ヘンネベルク教授は、この傾向が続くなら「世紀末までには誰もが正中動脈をもっているだろう」と述べており、突然変異や遺伝子流動などの微小進化(英: microevolution)との関連性を示唆しています。
もっとも調査データの範囲がかなり狭いため、この傾向は完全に決定づけられるものではなく1つの可能性に過ぎないでしょう。
しかし少なくとも現代の10%以上30%未満の人が正中動脈をもっていることは確かなようです。自分が第三の前腕動脈を持っている可能性も十分ありますね。
今後研究が進めば、より詳細な傾向やその原因が明らかになるかもしれません。
参考文献
phys
提供元・ナゾロジー
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