公園や並木道などの緑地は、都市部で生活する人たちに「安らぎ感」や「さわやかさ」を与えることで知られています。

しかし最近の研究により、人々のメンタルヘルスを向上させるのは、それら「緑の空間」だけではないと分かりました。

イギリスのグラスゴー・カレドニアン大学(Glasgow Caledonian University)健康生命科学部に所属するミハイル・ジョウルジウ氏ら研究チームは、水路や運河、湖などの「青の空間」が、都市部の人々のメンタルヘルスに良い効果をもたらすと報告したのです。

都市部に水路や池を導入することが今後の都市計画には必要なのかもしれません。

研究の詳細は、2022年7月29日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

目次
運河の再生に伴い、人々のメンタルヘルスに与える影響が調査される
運河の再生が困窮している人々のメンタルヘルスを改善する

運河の再生に伴い、人々のメンタルヘルスに与える影響が調査される

「水のある空間」は都市生活を送る人々の心に「癒し」を与えられる
(画像=緑の空間は都市部で生活する人々のメンタルヘルスに良い影響を与える / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

現在の都市開発では、緑地を含んだ計画が一般的です。

これは環境問題だけにアプローチしたものではありません。

人々のメンタルヘルスは、ビルや機械だけの無機質な空間よりも、公園や並木道などの植物が存在する空間の方が、良い状態を保てるのです。

緑の空間が私たちに癒しを与えることは、多くの専門家だけでなく、私たち自身が実感していることでしょう。

では、他にも私たちのメンタルヘルスを向上させてくれる要素はあるのでしょうか?

ジョウルジウ氏ら研究チームは、10年間にわたって「水のある空間」がもたらす影響を研究しています。

この研究は、イギリスの都市グラスゴー周辺の環境とそこに住む合計13万2788人の人々を対象にして解析されたものです。

「水のある空間」は都市生活を送る人々の心に「癒し」を与えられる
(画像=グラスゴー内のフォース・アンド・クライド運河。閉鎖された状態が続いていた / Credit:Dave souza(Wikipedia)_Forth and Clyde Canal、『ナゾロジー』より引用)

1963年、250年の歴史をもつ「フォース・アンド・クライド運河」が閉鎖され、廃棄物でいっぱいのゴミ捨て場へと変わってしまいました。

この運河はグラスゴーの近くを流れていたため、閉鎖と同時にグラスゴーを含む運河沿いの地域は大きな影響を受けたようです。

ところが2000年には運河の再生が開始。2006年にはレクリエーションスペースとして再オープンすることになったのだとか。

つまりグラスゴー周辺では運河が復活し、「水のない空間」から「水のある空間」へと大きく変化したわけです。

この点に着目した研究チームは、グラスゴーで生活する人々のメンタルヘルスに、水のある空間がどのような影響をもたらすか調査することにしました。

運河の再生が困窮している人々のメンタルヘルスを改善する

グラスゴー周辺は、経済的な困窮度が高く、生活が大変な地域です。

そのため、そこに住む人々は精神的な問題を抱えやすく、メンタルヘルスの改善が大きな課題となってきました。

そして研究チームは、10年間にわたる調査の結果、運河の再生がこれらの人々のメンタルヘルスに良い影響を与えていることを発見しました。

「水のある空間」は都市生活を送る人々の心に「癒し」を与えられる
(画像=フォース・アンド・クライド運河が再生され、「水のある空間」が都市に戻る / Credit:Michail Georgiou(Glasgow Caledonian University)_LIVING NEAR ONE NEGLECTED PIECE OF URBAN EYE CANDY CAN GREATLY BOOST MENTAL HEALTH(2022 Inverse)、『ナゾロジー』より引用)

経済的に最も恵まれていない人々で6%、中程度に困窮している人々で4%のメタルヘルス改善が見られたのです。

研究チームによると、「青の空間によるメンタルヘルス改善効果は、緑の空間がもたらす効果と同じか、それ以上だと示唆されています」とのこと。

またグラスゴー・カレドニアン大学で行われた2022年の別の研究では、再生されたフォース・アンド・クライド運河周辺に住むと、心血管疾患、脳卒中、高血圧になるリスクが10%以上も低下すると報告されています。

ただし現段階では、これらの結果と今回のメンタルヘルス改善の明確な因果関係は明らかになっていません。

「水のある空間」は都市生活を送る人々の心に「癒し」を与えられる
(画像=都市に水路や池を追加するなら、人々のメンタルヘルスに良い影響がある / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

しかし、水のある空間は私達の精神に重要な影響を与えていて、メンタルヘルスの改善や病気のリスク低下につながっているのかもしれません。

これらの点は、今後の研究によって解明していく必要があるでしょう。

研究結果を総合すると、これからの都市計画には、緑地の導入と同じくらい、水路や湖の導入について考慮した方が良い可能性が示唆されます。

そして研究チームは、「青の空間」導入の優先順位について、「今回の研究が示しているように、最も経済的に困窮している地域に焦点を当てるべき」だと述べています。


参考文献

LIVING NEAR ONE NEGLECTED PIECE OF URBAN EYE CANDY CAN GREATLY BOOST MENTAL HEALTH

元論文

A population-based retrospective study of the modifying effect of urban blue space on the impact of socioeconomic deprivation on mental health, 2009–2018


提供元・ナゾロジー

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