鳥類の赤ちゃん(ヒナ)は、卵の中で徐々に成長します。
胚が細胞分裂を繰り返しながら、さまざまな器官や部位が発生していき、最終的には成体のかたちになるのです。
そして最近、アメリカ・イェール大学(Yale University)地球惑星科学科に所属するバーラト・アンジャン・S・ブーラー氏ら研究チームは、発達中のヒナの骨盤が恐竜の骨盤の特徴と似ていると発表しました。
最終的には異なったかたちへと成長するものの、その途中では、恐竜のかたちを経ているというのです。
研究の詳細は、2022年7月27日付の科学誌『Nature』に掲載されました。
目次
「個体発生は系統発生を繰り返す」という仮説
ヒナの骨盤発生プロセスには、「恐竜の骨盤に似たかたち」が見られる
「個体発生は系統発生を繰り返す」という仮説
1859年、イギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンは、進化論を扱った『種の起源』を出版しました。
これに伴い、進化論と結びつけた「反復説」が広まります。
反復説はドイツの生物学者エルンスト・ヘッケル氏が提唱した1つの仮説であり、「個体発生は系統発生を繰り返す」という言葉でも表現されます。
個体発生とは受精卵が成体のかたちになるプロセスを指し、系統発生とは「単純な生物から多種多様なかたちに変化してきた」という進化のプロセスを指します。

例えば、ヘッケル氏が提出した上図(現在では正確性に欠けるとの指摘あり)では、人間の胎児が受精卵から発達していく過程が描かれています。
段階的に、魚類に似たかたち、爬虫類に似たかたち、ネズミに似たかたちを経ており、最終的にはヒトのかたちになっていますね。
これだけを観察すると、進化のプロセスをたどっているように見えるわけです。
つまり反復説では、胚の成長過程(個体発生)には、進化の過程(系統発生)が濃縮して見られると考えられています。
とはいえ、ヘッケル氏の反復説は多くの批判を浴びてきました。
実際、科学者たちから「ヘッケル氏は自身の説を強調するために、図の歪曲や生物データの捏造を行っている」と指摘されています。
このようにヘッケル氏の反復説は発表当初に爆発的な流行を見せたものの、その後は人々に見放されました。
しかし最近では、ヘッケル氏の反復説を部分的に再評価する科学者たちも現れており、この分野に改めて注目した研究も増えているようです。
ブーラー氏ら研究チームも、同様の観点で研究を続けており、最近になって新しい発見を報告しました。
ヒナの骨盤発生プロセスには、「恐竜の骨盤に似たかたち」が見られる
ブーラー氏ら研究チームは過去10年間にわたり、恐竜や爬虫類、鳥類におけるさまざまな部位の発達や構造を調査してきました。
そして新しい研究では、ニワトリ、ウズラ、チリ―シギダチョウ(学名:Nothoprocta perdicaria)、インコなどの胚の発達を調べ、恐竜の発達段階と比較しました。
CTスキャンと顕微鏡を使って発達段階を詳しく調査し、対象の胚に見られる寛骨(かんこつ:骨盤の主体となる骨)、筋肉、神経の3D画像を作成しています。

その結果、これら鳥類の寛骨の発達過程に、恐竜の寛骨と似たかたちが見られると分かりました。
現代の鳥類の骨盤は、発達していく過程で恐竜の骨盤に似た形状になり、その後さらに変化を続け、最終的にはトリのかたちに落ち着くというのです。
ブーラー氏は、この発見と反復説を結び付けて次のように主張しています。
「鳥類の発生の初期段階が、恐竜の腰のように見えるというのは、予想外でした。
わずか2日間で、発達中の胚は恐竜のような姿から現代の鳥類のような姿へと移行しており、進化の中でどのように変化したかを反映しています」

鳥類は恐竜から分かれて進化したと考えられています。
今回の報告は、発生過程の鳥類の骨盤に恐竜の骨盤の特徴が一時的に現れるというもので、それは発生中の生物の胚に祖先の状態が保持されることが一般的なことである可能性を示唆しています。
まだ明確な証拠とはならないかもしれませんが、興味深い報告なのは確かでしょう。
参考文献
The developing bird pelvis passes through ancestral dinosaurian conditions
元論文
The developing bird pelvis passes through ancestral dinosaurian conditions
提供元・ナゾロジー
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