オペラ歌手などの特別な発声や、アスリートが身体をコントロールする際、呼吸のパターンが重要な役割を果たしています。
特別な呼吸法は、再現できれば素人が技術を習得する際の大きな助けとなる可能性があるのです。
そこでマサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究チームは、呼吸のパターンを再現して伝えるために、衣服の伸縮の度合いを感知して、圧力や伸縮率、振動などの触覚を記録し、再現できる新しい繊維を開発しました。
このロボット繊維は、呼吸のリズムに合わせて自ら伸縮し、手術から回復した患者の呼吸パターンを回復させたりするためにも利用できるとのこと。
研究の詳細は、計算機協会(ACM)のオンライン会議「UIST ’21」で論文発表されています。
目次
呼吸筋の動きを監視・再生できる繊維
熟練者の呼吸法を体得する新しいトレーニング
呼吸筋の動きを監視・再生できる繊維

呼吸の仕方は、ある分野においては非常に重要な技術となっている場合があります。
今回の研究チームが着目したのは、オペラ歌手の発声方法です。
研究に協力したオペラ歌手、ケルシー・コットン(Kelsey Cotton)氏は次のように語ります。
「私は、この専門知識を何らかの方法によって具体的な形にしたいと考えていました」
しかし、呼吸というものはそれを行う本人以外には、なかなか分かりづらい部分があります。
これを他者に伝えるには、どのような方法を取ればよいのでしょうか?
そこで着目されたのが、呼吸する際に衣服にかかる圧力です。
研究者によって「Omni Fibers(オムニ・ファイバー)」と名付けられた新しい繊維は、人の呼吸のタイミングを正確に記録して再現する能力があるといいます。
この繊維には、流体を流す経路があり、これによって圧縮空気などの媒体の加圧・放出を利用して繊維の形状を制御します。

さらに、この繊維にはセンサーが内蔵されていて、伸びの度合いを検出・測定することが可能です。

このような機械的な仕掛けが施されているにも関わらず、この複合繊維は薄くて柔軟性があり、市販の道具で、縫ったり織ったり編んだりすることも可能なのだそうです。
また、表層の素材には一般的なポリエステルが使用されているため、人間の肌にも負担をかけません。
応答速度が早く、力の強さや種類も豊富に再現できるため、ハプティクス(触覚)を利用したトレーニングや遠隔地とのコミュニケーションのためにも利用することが可能です。
こうしたタイプの繊維には、これまで人工筋繊維のようなものが知られています。
しかしこれらは大抵の場合、人の皮膚に触れると発熱する問題や、電力効率が低い点、応答が遅く迅速なフィードバックを必要とする用途には使えないなど、多くの欠点がありました。
今回の研究では、こうした問題点を克服したロボット繊維製の服をコットン氏に着てもらい、その状態で歌ってもらうことで、歌手の行う独特の呼吸をセンサーで記憶。
そしてそれを対応する触覚フィードバックへと変換したのです。