グラスに熱湯を注ぐと割れてしまいます。
これは物体の熱膨張によるものであり、材料の種類によっても膨張の程度には違いがあります。
オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学(UNSW)に所属する化学者ニーラジ・シャルマ氏ら研究チームは、-269〜1126℃(4~1400ケルビン)の間で熱膨張ゼロの材料を新しく発見しました。
これまで発見された中で最も熱安定性の高い材料となる可能性があります。
研究の詳細は、5月6日付の科学誌『Chemistry of Materials』に掲載されました。
目次
-269〜1126℃の間で熱膨張しない新材料
熱膨張ゼロの材料は、航空宇宙工学や医療インプラントに役立つかも!
-269〜1126℃の間で熱膨張しない新材料

新しい材料「Sc 1.5 Al 0.5 W 3 O 12」は、スカンジウム、アルミニウム、タングステン、酸素で構成されています。
当初研究チームは、バッテリー関係の研究を行うためにそれらを扱っていました。
ところが偶然にも安定する組成を発見。しかもそれは「非常に熱膨張しにくい」という性質があったのです。
そこでチームは、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)の解析装置を利用することにしました。
その結果、「Sc 1.5 Al 0.5 W 3 O 12」は、-269〜1126℃の間で熱膨張ゼロだと分かりました。
これは絶対零度に近い環境でも、マッハ5で飛行する超音速航空機に加わる熱を受けたとしても、全く同じ体積を維持しているということです。
これまでに発見された最も熱的に安定した材料の1つだと言えるでしょう。
熱膨張ゼロの材料は、航空宇宙工学や医療インプラントに役立つかも!

通常、材料は温度の上昇に応じて膨張します。
それは温度の上昇が、原子結合の長さの増加に直結するからです。
さらに温度上昇が原子を回転させ、構造が変化する場合もあります。
ところが新しい材料では、温度が上昇しても「結合」「酸素原子の位置」「原子配列の回転」にはわずかな変化しか見られません。
研究チームによると、この熱安定性の正確なメカニズムは完全には解明されていないとのこと。
しかし、「おそらく結合の長さ、角度、酸素原子の位置が互いに協調して変化し、全体の体積を維持している」と予測しています。
この新しい材料は、将来的に航空宇宙工学の分野で役立つかもしれません。
スペースシャトルは打ち上げ時や大気圏再突入時、また宇宙空間で極度の熱と寒さにさらされるため、熱膨張ゼロの材料が大きな助けになるのです。
また医療用インプラントのように、温度変化の範囲は少ないものの、わずかな熱膨張で重大な問題を引き起こすケースでも重宝されます。
現在、「Sc 1.5 Al 0.5 W 3 O 12」は、さらなる研究が進められており、大規模製造に向けた製造方法やコスト削減法が検討されています。
参考文献
Extraordinary new material shows zero heat expansion from 4 to 1,400 K
元論文
Sc1.5Al0.5W3O12 Exhibits Zero Thermal Expansion between 4 and 1400 K
提供元・ナゾロジー
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