あらゆる飛翔生物の中でもトンボは、優れて安定した飛行能力を持ちます。
空中でのホバリングはもちろん、後退移動や宙返りもお手の物です。
その一方で、バランスを崩した状態から姿勢を戻す方法についてはあまり知られていません。
しかし、インペリアル・カレッジ・ロンドンの最新研究により、トンボは、意識がなくとも姿勢を修正できる飛行メカニズムを取り入れていることが判明しました。
驚くことに、死んだ状態でも逆さまから姿勢を戻せるようです。
研究は、2月10日付けで『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されています。
死んでも姿勢が戻せる「受動的安定性」とは?
実験では、20匹のトンボに、CGIを作成する際に使われるようなモーショントラッキング装置を取り付けました。
加えて、小さな磁石を取り付け、それぞれのトンボを磁気プラットフォームに固定し、傾斜を色々に変えながら自由落下させました。

モーショントラッキング装置は、高速度カメラによって捕捉されたトンボの動きを3Dで再構成し、動きの細かな変化を明らかにします。
その結果、トンボは、背面状態で落下するとき、空中で左右いずれかに反転して正常ポジションを取り戻す方法を多用していました。
また、意識を失っている状態でも実験したところ、反応は少し遅れるものの、同じように空中で反転して姿勢を修正しています。
さらに踏み込んで、すでに死んだトンボを背面状態で落下させてみました。
1度目はまったく反転できなかったものの、翅の位置を生きているトンボと同じ状態にセットして落下させたとこと、見事に姿勢を修正できたのです。
この反転修正は、トンボの意識ではなく、筋肉の緊張状態や翅の位置に大きく依存した受動的な反応です。
こうした飛行メカニズムを「受動的安定性(passive stability)」を呼び、他の飛翔生物には見られません。
代表的な例としてあげられるのが「飛行機」です。
飛行機は、エンジンが故障すると空中からすぐさま落下するのではなく、安定して滑空できるよう設計されています。

研究主任のサム・ファビアン博士は「受動的安定性は飛行に必要な消費エネルギーを少なくするため、トンボの飛翔能力の進化に影響したと見られます。
受動的安定性を利用するトンボは、不便な姿勢から回復する能力が高く、それに費やされる労力も少ないため、より生存に有利になったでしょう」と指摘しました。
実際、トンボは約3億年前に誕生しており、最古の飛翔生物の一つとして有名です。
この結果は、ドローンなど小型無人機の改良に役立つと見られます。
現在のドローンの大半は、姿勢維持のために機械的な高速フィードバックに依存していますが、受動的安定性を組み込むことで、飛行パフォーマンスが格段にアップするかもしれません。
参考文献
Dragonflies perform upside down backflips to right themselves
Dragonflies’ self-righting mechanism could find use in safer drones
元論文
Dragondrop: a novel passive mechanism for aerial righting in the dragonfly
提供元・ナゾロジー
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