3Dバイオプリンティングとは、医療分野において3Dプリンターを使って生きた組織や器官を印刷する技術のことです。
この技術で重要なのが、印刷する組織の元となるバイオインクの材料です。
新しい研究はありふれた海藻であるアオサから、人間の皮膚に存在する分子と構造や機能が非常に似ている生体分子を特定したと報告しています。
これを利用すれば、創傷を傷跡が残らないように治癒するバイオインクを作り出せるとのこと。
この研究は、科学雑誌『BiomaterialsScience』の最新号に掲載されています。
細胞を印刷する材料

3Dバイオプリンティングという言葉には、まだあまり馴染みがないという人も多いかもしれません。
3Dプリンターの話題はいろいろあり、たまに肝臓や心臓を3Dプリンターで印刷したというニュースが登場します。
これはプラスチックで肝臓や心臓を印刷しているわけではありません。実際に生きた細胞を使って臓器を印刷しているのです。
3Dバイオプリンティングでは、実験用に生きた組織や臓器を印刷する場合が多いですが、新しい治療方法としても注目を集めています。
2018年には、カナダのトロント大学が組織を皮膚に直接印刷することで重度の火傷を治療する研究を発表して話題となりました。
こうした治療用のバイオプリンティングで重要となるのが、生きた細胞とうまく接着し、増殖や分化を支援できる生体材料(バイオインク)を見つけることです。
それは毒性がなく、人の細胞とよく似た構造や機能を持っている必要があります。
そして、オーストラリアのウロンゴン大学の研究チームは、このバイオインクとして非常に優れた可能性のある材料を新たに発見したことを、今回発表したのです。
その材料は、ありふれた海藻である「アオサ」に含まれていました。
アオサは、普通にAmazonでも購入できる食用の海藻です。

あのアオサに含まれる分子は、人間の生体分子とよく似た構造と機能を持っていました。
研究者によると、このアオサは創傷治癒のための細胞増殖の足場を作成する際に役に立つのといいます。
それの何が重要なのかというと、創傷は治癒の際に細胞構造が収縮を起こします。
アオサのようなバイオインクは、損傷組織に印刷されると、この細胞構造の収縮を防ぐため、創傷治癒の際に残る傷跡を最小限に抑えることができるのです。
海藻から人間の皮膚と非常によく似た分子構造が見つかるのは、とてもエキサイティングで、わくわくする、と研究者は語ります。
これが、治りにくい傷の治癒を早め、傷跡を残さないように機能してくれるとなると、医療において大きな革新となるでしょう。
参考文献
Researchers discover seaweed molecules can help heal wounds(UOW)
元論文
3D bioprinting dermal-like structures using species-specific ulvan
提供元・ナゾロジー
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