飲み薬や浣腸は、胃や腸などの消化管から薬を吸収するための療法です。

しかし適切な部位が、十分な量の薬を吸収するのを待たなければなりません。

ときには何時間もかかるでしょう。

アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得し、現在Suono Bio社の共同設立者兼CTOであるカール・シェルハンマー氏は、長年の研究を経て、超音波によって薬を消化管に押し込む新しい治療法を確立しました。

そして7月には臨床試験に進めるための資金調達を発表しています。

目次
消化管における「薬の迅速な吸収」の必要性
超音波による気泡が薬を細胞に押し込む

消化管における「薬の迅速な吸収」の必要性

薬を劣化させずに体内に送り込むためには、保護膜でカプセル化するなどして「製剤化」しなければいけません。

しかも同じ飲み薬(経口剤)であっても、薬の効果を発揮させたい場所(胃、小腸、大腸など)によって配合が異なります。

また消化管は一般的に小分子を吸収するため、生物製剤、タンパク質、遺伝子治療薬などの大きな分子は分解されてしまうという課題がありました。

超音波で消化管に薬を押し込む新しい治療法
(画像=浣腸による薬剤投与 / Credit:Massachusetts Institute of Technology (Youtube)_Ultrasound drug delivery(2015)、『ナゾロジー』より引用)

さらに消化管吸収の課題は、飲み薬の分野だけに留まりません。

炎症性腸疾患、腫瘍性大腸炎、クローン病などの胃腸疾患は、浣腸による薬剤投与で治療されます。

しかし薬が吸収されている間、その状態を何時間も維持しなければいけません。

そのため浣腸による薬剤投与においても、迅速な吸収を可能にするアイデアが求められてきました。

超音波による気泡が薬を細胞に押し込む

超音波で消化管に薬を押し込む新しい治療法
(画像=気泡が破裂するときに薬を細胞に押し込む / Credit:Suono Bio、『ナゾロジー』より引用)

1995年、MITの科学者たちは、超音波が薬の皮膚通過に役立つことを初めて発見しました。

超音波が液体を通過すると、小さな気泡が発生。

そしてこの気泡が破裂するときに、薬を細胞に押し込むことができるのです。

それから約20年後、シェルハンマー氏ら研究チームはこの発見を前進させました。

2種類の超音波ビームを同時に皮膚に当てることで、吸収効率をさらに向上させたのです。

では、皮膚以外にも超音波を利用できるでしょうか?

彼らが次に挑戦したのは、消化管への応用です。