共産主義及び共産党の著しい退潮

共産主義イデオロギーである「マルクス・レーニン主義(暴力革命とプロレタリアート独裁の理論と実践)」の影響力は、1991年のソ連崩壊以後、世界的に著しく退潮した。共産主義を党是とする日本共産党も例外ではない。日本共産党はその党勢が年々衰退し、現在では党員数は1990年の50万人から27万人と半減した。機関紙「赤旗」発行部数も1980年の350万部から現在の100万部と3分の1以下に激減した。そのうえ、党員の高齢化が進み、「世代的継承」にも大きな課題を抱えている。

こうした党勢の衰退により、共産党は2016年の参院選比例得票数601万票、得票率10.7%から、今回の参院選比例得票数361万票、得票率6.8%へと著しく減少し、当選者も2016年の6名から4名に減った。組織政党ではない「れいわ新選組」の比例得票数が231万票、得票率4.4%、当選者3名であることから見ると、組織政党である共産党にとっては深刻な事態と言えよう。

このような共産主義及び共産党の退潮は、1991年のソ連崩壊後、日本共産党のみではなく世界的現象である。すなわち、西欧先進資本主義諸国の共産党は、イタリア共産党、フランス共産党など例外なく退潮し、国政選挙において、議席を獲得することも容易ではなくなった。

そのため、イタリア共産党は、ソ連崩壊後、いち早く共産主義イデオロギー(マルクス・レーニン主義)を放棄し、社会民主主義政党の「左翼民主党」になり、1996年中道左派連合「オリーブの木」と連携して政権を獲得した。

共産主義及び共産党退潮は構造的問題

このような共産主義及び共産党退潮の第一の原因は政治的原因である。崩壊した旧ソ連や中国型の共産党一党独裁(プロレタリアート独裁)による市民的自由や基本的人権の抑圧を、欧米や日本などの発達した先進資本主義諸国の労働者階級を含む国民は到底容認しないからである。日本共産党の党員ですら、旧ソ連や中国型の人権抑圧の「共産主義」は容認しないであろう。なぜなら、日本共産党の党員も発達した日本の自由民主主義社会における市民的自由や基本的人権を享受しているからである。

共産主義及び共産党退潮の第二の原因は経済的原因である。マルクスは主著「資本論」で、「資本主義が発達すればするほど労働者階級は窮乏化する(窮乏化法則)」と説いたが、欧米・日本などの先進資本主義諸国では労働者階級の窮乏化が起こらず、逆に労働者階級の生活水準は向上し、階級闘争による社会主義革命の条件が消滅した。

具体的には、日本では男女の賃金格差や、非正規雇用の増加などの課題はあるが、生産力の発展による持続可能な経済成長で失業率が低下し(2022年2.6%総務省)、名目賃金も年々上昇し(2022年2.11%連合)、年金・医療・介護などの社会保障制度も整備されている。そのため、労働者階級の間でもマイカー・マイホーム・電化製品・海外旅行なども普及した。生活水準の向上は他の先進資本主義諸国の労働者階級も同様である。すなわち、マルクスの「窮乏化法則」は先進資本主義諸国では破綻しているのである。

このように、マルクスによれば、社会主義革命の主体である労働者階級の窮乏化が起こらず、逆に生活水準が向上すれば、資本家との階級闘争も減少するから(ストライキ件数激減2019年数十件厚労省)、社会主義革命が起こらないのは歴史的必然であり構造的問題であると言える。

歴史的使命を終えた先進国共産党

以上からいえることは、構造的に「先進国革命」はもはや不可能または著しく困難だということである。なぜなら、「労働者階級の窮乏化」という社会主義革命にとって最も重要な条件がもはや欧米・日本などの先進資本主義諸国では消滅しているからである(2020年5月4日掲載「破綻した日本共産党の先進国革命路線」参照)。

これらの先進資本主義諸国では「能力に応じて働き必要に応じて受け取る」(マルクス著「ゴーダ綱領批判」)との共産主義の理想も、失業率が低下し、生活水準が向上した労働者階級にとっては、もはや魅力を失っている。そうだとすれば、欧米・日本などの先進資本主義諸国の共産党は、「労働者階級の地位向上」と「労働者階級の生活水準向上」という歴史的使命を終えたと言えよう。

文・加藤 成一/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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