ハンバーグの火の通りは、一度だけひっくり返した方が早いのか、それとも何度もひっくり返した方が早いのか?

この謎が数学によって解決されました。

米ウィスコンシン大学マディソン校(UWM)の数学者であるジャン・リュック・ティフォー(Jean-Luc Thiffeault)氏は、ハンバーグをひっくり返す回数により、火の通りのスピードに違いが出るかどうか、数学モデルを用いて調査。

その結果、短いインターバルでひっくり返す回数を増やすほど、焼き上がりにかかる時間が短縮されることが判明しました。

調理時間は、最大で3分の1近くカットできたようです。

研究の詳細は、2022年6月17日付で科学雑誌『Physica D』に掲載されています。

焼き上がりまでの時間を最大で29%減!

ティフォー氏は、パテ(薄切り肉)の中を熱がどのように移動するのかについて、数学を用いてモデル化しました。

このモデルでは、パテの厚さを1センチとして、片側に発熱体(=グリルパン)があり、もう片側に新鮮な空気があると設定します。

パテは、200 ℃の発熱体と直接接触して熱を受け、空気に触れている側(25 ⁰C)から熱が逃げていきます。

また、パテは中心部の肉が70 ⁰Cに達した時点(ウェルダン)で、火が通った(調理完了)と見なされます。

そして、数値解析ソフトウェア「MATLAB」を使って、パテの中の熱伝導率を計算し、調理にかかる時間をシミュレーションしました。

その結果、1枚のパテを1度だけひっくり返した場合、中心部が70 ⁰Cに達するまでの時間は80秒でした。

しかし、パテを短い間隔で何度もひっくり返す場合、火の通りは早くなることが判明したのです。

たとえば、6〜11秒の感覚で10回ひっくり返すと、調理時間は69秒まで短くなりました。

シミュレーションでは、調理時間は最大で29%短縮できることが示されています。

これは、パテをひっくり返す回数が多いほど、両面が同時に加熱される状態に近くなるためと考えられます。

その一方で、調理時間の短縮効果には限界があることもわかりました。

ハンバーグを早く焼き上げる最適な「ひっくり返し」の回数が判明!
(画像=調理時間は最大で29%も短くなった / Credit: canva、『ナゾロジー』より引用)

ティフォー氏によると、ひっくり返しの頻度による時間短縮の効果には、ある閾値があり、それを超えてひっくり返しを続けても、効果は増大しなかったとのこと。

実際、シミュレーションでは、3〜4回ひっくり返すことで、最大限に近い短縮効果が得られており、それ以上ひっくり返して得られた効果は、無視できるほど小さかったようです。

つまり、「ハンバーグを早く焼き上げるのに最適なひっくり返しの回数」の答えは、「3〜4回」となります。

また、ティフォー氏の調査結果は、アメリカの料理研究家であるケンジ・ロペス・アルト(Kenji López-Alt)氏が、2019年に実演して得られた結果と一致するものです。

アルト氏は、パテの中心温度が52 ℃に達するまでの時間(これはレアを設定している)は、パテを15秒ごとにひっくり返すことで、1回ひっくり返す場合よりも、調理時間を3分の1近く短縮できたと述べています。

ハンバーグを早く焼き上げる最適な「ひっくり返し」の回数が判明!
(画像=アルト氏による実験結果。右下のグラフは、1回だけのひっくり返し、1分ごと、30秒ごと、15秒ごとでの調理時間の違いを示す / Credit: J. Kenji Lopez-Alt – How Often Should You Flip a Burger? | The Burger Lab(serious eats, 2019)、『ナゾロジー』より引用)

ただ、一般家庭において、1枚のハンバーグの焼き上がりを80秒から69秒に短縮できたところで、それほど大きなメリットはないでしょう。

大家族ならまだしも、一人暮らしや3〜4人家族なら、さして役に立つほどのテクニックでもないと思われます。

(もしかしたら、頻繁にひっくり返すことで、肉汁が逃げて、味が落ちるかもしれません。そこはぜひお試しを)

しかし、マクドナルドのように、1日に数百万個のハンバーガーを作るなら話は別です。

1枚のパテにつき、調理時間を3分の1も短くできれば、調理に使われるエネルギーコストの大幅な削減に繋がるでしょう。


参考文献

Here’s the quickest way to grill burgers, according to math

How Mathematics Solved The Burger Flipping Problem

元論文

The mathematics of burger flipping


提供元・ナゾロジー

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