1966年公開のSF映画『ミクロの決死圏』で、ミクロ化した人間が患者の体内に入って手術をするという物語が繰り広げられました。
しかし、この空想話はマイクロロボットの誕生で現実になりつつあります。
アメリカ・パデュー大学は、患部にピンポイントで薬を届ける極小のマイクロロボットを開発し、マウスを用いた生体実験を行いました。
その結果、マウスの腸内でロボットをコントロールし、目的の場所まで薬を運ぶことに成功しています。
研究は、9月17日付けで『Micromachines』に発表されました。
目次
体外から磁力でコントロール
マウスの生体実験に成功!ヒトにも応用できる?
体外から磁力でコントロール
研究チームが開発したマイクロロボットは、髪の毛の太さ数本分のサイズしかなく、バッテリーも搭載されていません。
このロボットはバッテリーを載せるには小さすぎるため、体外から磁力を使ってワイヤレスで動きをコントロールします。
また、体内の通路は液体や物質が一定方向に流れており、ロボットはその流れに逆らって進まなければなりません。ロボットはバックフリップ(後転)をしながら移動するとのこと。
同チームのデイビッド・カッペレリ氏は「ロボットが後転しながら進む様子は、デコボコの道を走る車のタイヤに似ている」と説明します。

マウスの生体実験に成功!ヒトにも応用できる?
マウスを用いた生体実験では、マイクロロボットを生理食塩水に載せて腸内に注入しました。
ロボットが目的地に到達したら、ポリマーコーティングで搭載した薬を患部に向けてリリースします。コーティングのおかげで、目的地に到達する前に薬が熱で溶け出すことはありません。
ちなみに、この治療法にはピンポイントで薬を届けることで健康な細胞にダメージを与えないメリットがあります。経口薬だと、余分な場所に悪影響を与えて、副作用が現れてしまうのです。
そして生体実験の結果、ロボットは生きたマウスの腸内で正確に機能することが確認されました。
こちらが、超音波装置を使ってリアルタイムで確認された様子です。

また、ポリマーと金属で安価に作られたマイクロロボットは、毒性がなく、生体適合性があることが確認されています。
一方で、研究チームによると、マウスより大型の動物やヒトで実用するには、より多くのマイクロロボットを同時に投入する必要があるとのことです。
カッペレリ氏は「現時点では、薬の運搬用としての実用を考えていますが、将来的には、細胞を採取するなど検査用として扱うことも視野に入れている」と話します。
『ミクロの決死圏』のような医療の実現は、もう目の前かもしれません。
参考文献
sciencealert
purdue
提供元・ナゾロジー
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