先ごろ、オンラインにて全世界同時発表されたハーレーダビッドソンのニューモデル「スポーツスターS」。日本総代理店のハーレーダビッドソンジャパンのウェブサイトでも、スペックからメーカー希望小売価格まで発表されました。これまでマイナーチェンジの域を出なかったハーレーダビッドソンの人気ファミリーが完全フルモデルチェンジと、話題性十分なスポーツスターSの詳細を分析していきたいと思います。
目次
スポーツスターとは
スポーツスターSを紐解く
・エンジン:水冷Vツイン REVOLUTION Max 1250T
・-30kgの大幅な軽量化を実現
・アメリカンマッスルカーのようなサイズ感
・パンアメリカと同じくブレンボ製ブレーキが
・ベルトドライブが車体左側に
・4インチ丸型TFTディスプレイ
・最新のトラクションコントロールシステム
・ヘッドライト & ミラー
・テールランプ & ウインカー
・メーカー希望小売価格
スポーツスターとは
「スポーツスター」という名称のモデルが世に登場したのは今から約70年前の1952年。当時の北米市場で人気を博したBSAやノートン、トライアンフといったイギリスのネイキッドバイクに対抗すべく、クルーザー主体だったハーレーダビッドソンが生み出したスポーツバイクとしてのカテゴリーでした。
サイドバルブエンジンからはじまり、アイアンスポーツ、エボリューション、そしてラバーマウントスポーツと、空冷Vツインエンジン + ツインショックフレームという基本軸は崩さないマイナーチェンジの範囲内で進化を繰り返し、伝統的なスポーツスターのスタイリングを継承してきました。
他メーカーの動向に目を向けると、空冷エンジンから水冷エンジンへ移行するモデルが増え、エンジンはもとよりフレームの形状から素材に至るまで進化の一途を辿っていました。基本的な姿をそのままに受け継ぐハーレーダビッドソンの姿は時代錯誤とも言われていましたが、IT企業の台頭など進化が著しく見えつつも実は生活様式そのものは変わらないアメリカという国の姿を体現していた象徴たる企業だとも言えます。
そんな懐古主義を貫いてきたハーレー・スポーツスターのプラットフォーム(ラバーマウントスポーツスター)も2004年から数えて18年。いつかいつかと言われてきたプラットフォームがついに一新することに。それが今回発表のスポーツスターSです。
スポーツスターSを紐解く
エンジン:水冷Vツイン REVOLUTION Max 1250T
ベースとなるエンジンとフレームが変わるという、文字通りフルモデルチェンジとなったスポーツスター。伝統の空冷Vツインエンジンは、ハーレー初のアドベンチャーモデル「パンアメリカ」にも搭載されている水冷Vツインエンジン「レボリューションマックス」に。正式名称は「REVOLUTION® Max 1250T」で、排気量は1,250ccです。
パンアメリカと同じエンジンなので、骨格たるフレームも同じリアサスペンションがシート下に潜むモノショックフレームに。
-30kgの大幅な軽量化を実現
気になる重量はというと、228kg。フォーティーエイトなどに代表される前任のラバーマウントスポーツの重量が平均260kgだったことを考えると、水冷エンジン + モノショックフレームという見かけだけじゃないキャラクターの変貌ぶりが窺えるかと思います。インディアン FTRが218kg、BMW R nineTが222kg、トライアンフ ボンネビルが229kgと、ライバルとなるモデルと互角の軽さ。スポーツバイクとしての進化を遂げつつ、ライバルに肉薄する仕上がりになっていますね。
水冷エンジンなので、空冷エンジンに備わっていた右側のエアクリーナーはなくなり、フレーム前部にラジエターが備わります。かつてハーレーが創業100周年の際にドロップした初の水冷バイク「Vロッド」を彷彿させるサイズ感です。レボリューションマックスというエンジンそのものがマッシブなこともありますが、合わせて見るとアメリカンマッスルカーのよう。
エアクリーナーがなくなったエンジン真横を流れるのは、2-INTO-1ハイマウントエキゾースト。ハーレーの歴史に燦然と輝く往年の名レーサー XR750 を思わせるトラッカースタイルのマフラーです。
アメリカンマッスルカーのようなサイズ感
全長は2,160mmと、フォーティーエイトと比べると約10cm長くなっています。同様にホイールベースも長い模様。重量とともにコンパクトなスポーツバイクにまとめてきた印象を抱いていたので、このサイズアップは意外でした。それでいて、フロント17 / リア16インチホイールに極太タイヤを履かせたフォーティーエイト感漂うこのフォルム。ステップ位置もフォワードコントロールと、そのスタイリングからはハーレー特有のアメリカンクルーザー臭が漂っています。
1,250ccの水冷Vツインエンジンと軽量化されたボディから、相当なじゃじゃ馬と思うところでのボディサイズ。実際のライディングがどのようになるのか、興味深いですね。
パンアメリカと同じくブレンボ製ブレーキが
前後ブレーキキャリパーはブレンボ製に。パンアメリカと同じ仕様といったところですが、1,250ccというリッターバイクにも関わらずシングルディスクという仕様です。前述のインディアン FTRやBMW R nineTはそのパワーを制御すべくダブルディスク仕様なのですが、ブレーキング性能に相当自信があるのか、あるいは「スピードを出して楽しむ乗り物じゃない、制御可能な速度域で楽しんで欲しい」というH-Dカンパニーからのメッセージなのか……。試乗したときにその真相が分かるかもしれませんね。
ベルトドライブが車体左側に
現スポーツスター乗りとして このスポーツスターSを見たときに大きなトピックスだと感じたのが、このベルトドライブの位置変更です。歴代スポーツスターはこのドライブ位置が車体右側にありました。他のビッグツインはもちろん、かつてラインナップされていたストリート750でさえベルトドライブが左側だったのです。
縦置きVツインエンジンを心臓とするハーレーの場合、2本のマフラーは右側に流れるように設置されます。そこにベルトドライブが同じ右側にあると、特にリアタイヤの右側にスプロケットとマフラーが重なるように配置されるのです。実際の走行時に妙な影響が出ることはありませんが、ナローにカスタムしたいオーナーとしては、他モデルと同様にベルトドライブは車体左側に来てほしいところ。「なぜスポーツスターだけ」という謎は70年の歴史のなかで解消されませんでしたが、スポーツスターSになってようやく収まりの良い設計になってくれました。
4インチ丸型TFTディスプレイ
一見するとクラシックバイクに備わるシンプルなラウンド型スピードメーターに見えるこちら、メーター機能とインフォテインメント機能が内蔵されているディスプレイなんです。タイヤ空気圧、エンジン温度と油圧、バッテリー電圧などをモニタリングできます。
また、スポーツ、ロード、レインの3つ + オーナーの好みの設定にできる計4つのライディングモードが選べるシステムも。ハンドルに備わるスイッチボックスに操作キーがあり、ここで調整をはかるようです。
最新のトラクションコントロールシステム
「コーナリング エンハンスド テクノロジー」と名付けられたハーレー独自のトラクションコントロールシステムが搭載されています。コーナリングの際に出過ぎているスピードを抑えたり、悪天候時にタイヤが空転した瞬間に回転数を最適化してくれるセーフティライドなシステムです。
ヘッドライト & ミラー
ヘッドライトは当然ながらLED。デザインはハーレーダビッドソン・ファットボブと同じ横長楕円形です。太いタイヤを履かせるとフロントフォーク間の幅が広がり、まん丸いラウンド型ヘッドライトだと間延びしてしまうのでデザイン性と合わせての設計と思われます。
ラウンド型のサイドミラーはバーエンドに設置。すり抜け時にはご注意を。
テールランプ & ウインカー
車体左側スイングアームから伸びるステーに、ナンバープレートとセットでテールランプとウインカーがマウントされています。180mmという極太リアタイヤとの組み合わせもあって、ドゥカティ・ディアベルに似たディテールですね。
メーカー希望小売価格
メーカー希望小売価格は1,858,000円。
前任のスポーツスターでもっとも高いフォーティーエイトが1,537,800円〜1,567,500円なので、30万円ほどアップしています。本国アメリカでの販売価格は14,999ドルで、日本円に換算すると1,646,740円。関税を考えると 結構勉強してくれているようで、つまりはベースとなる金額が高い。
1,858,000円という金額がどのような価格帯か、近しい販売価格のモデルと比較してみました。同じハーレーダビッドソンのなかで見ると、ストリートボブが1,996,500円〜2,039,400円。競合モデルとなるBMW R nineTが1,985,000円から。スポーツスターSと同じボバースタイルで、排気量1,200ccのトライアンフ ボンネビルボバーが1,790,000円〜1,829,600円。
ラバーマウントスポーツと比べると、エンジン + フレームの刷新にスイングアームやブレーキなどグレードアップした各ディテール、競合モデルに匹敵する最先端機能を備えたデジタルシステムの導入と、マシンそのものの質が一気にアップしているので価格アップも致し方なしかと思います。大型ネオクラシックと呼ばれるカテゴリーの金額帯は180〜200万円が相場になっていることは理解できつつも、高価なビッグツインの前に手頃なスポーツスター(かつての最安値が883,000円〜110万円から150万円が当時の相場)からハーレーライフを……というエントリーモデルとしての役割を担う存在ではなくなったんだとも思う次第です。ストリート750もラインナップから姿を消しているので、結果的に敷居を高くした感は否めません。