「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」とは、地球の軌道上を周回している人工物の破片のことです。

NASAによると、地球低軌道にあるデブリのうち、ソフトボール大のものは約2万3000個、1〜10センチのものは約50万個、1センチ以下のものは約1億7000万個に達すると推計されています。

スペースデブリは、現役で活躍中の人工衛星や宇宙望遠鏡、ISS(国際宇宙ステーション)に衝突する恐れがあるため、非常に懸念すべき問題です。

では一方で、地上に暮らす私たちにとって、デブリは何の害もないのでしょうか?

幸いにも、デブリの落下によるケガ人や死者は、今のところ報告されていません。

しかし、人工衛星やロケットの打ち上げ数が年々増加していることを考えると、そのリスクはもっと真剣に受け止められる必要があります。

そこでカナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)は、今後10年間で、スペースデブリの落下による死傷者が出る確率を試算することにしました。

果たして、どんな結果が出たのでしょうか?

研究の詳細は、2022年7月11日付で科学雑誌『Nature Astronomy』に掲載されています。

目次
赤道に近い地域で落下リスクが増大?
スペースデブリへの対策にはどんなものがある?

赤道に近い地域で落下リスクが増大?

今回の研究では、使用済みになった制御不能のロケットの破片が、地上に落下して死傷者を出す確率が調べられました。

まず、地球軌道上におけるロケット部品の傾きや軌道、その下方(地上)の人口密度などを数学的にモデル化。

さらに、過去30年分の衛星データを用いて、破片が地上のどこに落下する確率が高いかを推定しました。

その結果、今後10年で破片が地球に再突入する確率は、全体としては低いものの、北半球の北部地域より、赤道に近い地域で落下リスクが高くなることが示されました。

具体的には、インドネシアのジャカルタ、バングラデシュのダッカ、ナイジェリアのラゴスなどが位置する緯度は、アメリカのニューヨーク、中国の北京、ロシアのモスクワに比べて、デブリの落下する確率が3倍高いと試算されています。

これは、人工衛星やロケットの大半をアメリカ、中国、ロシアが打ち上げていることを踏まえると、皮肉な結果です。

今後10年で「スペースデブリ落下」により死傷者が発生する確率は?
(画像=赤道に近い地域で「デブリ落下・死傷者」のリスクが高まる、赤点は人口密度 / Credit: Michael Byers et al., Nature Astronomy(2022)、『ナゾロジー』より引用)

またチームは、1回のデブリの落下が10平方メートルの範囲に致命的な打撃を与えると仮定した場合の、人命へのリスクである「死傷者予想値」も算出。

すると、今後10年間で平均1人以上の死傷者が出る確率は10%であることがわかりました。

「10%なら心配には及ぶまい」と過小評価してはなりません。

研究者によると、1957年の人類初の人工衛星・スプートニク1号の打ち上げ以来、デブリ落下による死者が1人も出ていないことを考えれば、今後10年で被害の確率が10%は非常に高い数値だ、と指摘します。

今後10年で「スペースデブリ落下」により死傷者が発生する確率は?
(画像=今後10年間で死傷者の出る確率は10%、これは低い数値ではない / Credit: canva、『ナゾロジー』より引用)

これまで、スペースデブリが地上(あるいは大気圏内の航空交通)に害を及ぼす可能性は無視できると判断されてきました。

しかし、人工衛星やロケットの打ち上げ増加にともない、宇宙と地上の双方における事故発生率も年々高まっているのです。

したがって、「10%という数字はかなり保守的な見積もりである」と研究者は警告しています。

スペースデブリへの対策にはどんなものがある?

スペースデブリについては、すでに多くの対策が考案されています。

たとえば、ロボットアームを使ってデブリを把捉し、回収する方法です。

しかし、デブリは宇宙空間をゆっくりと漂っているのではなく、弾丸の7倍という猛スピードで移動しています。

そのため、下手に捕まえようとすると、ロボットの方が破損して、さらなるデブリを生み出しかねません。

そこで専門家が考えているのは「トラクタービームでデブリを吸い寄せる」という方法です。

これは、米ユタ大学(University of Utah)の機械工学者、ジェイク・アボット(Jake Abbott)氏の発案によるもので、磁石の渦電流(うずでんりゅう)を利用します。

簡単に説明しますと、ロボットアームの先に磁石を取り付け、それを高速回転させることで渦電流を生成。

その磁場を使って、デブリを吸い寄せて回収するというものです。

あとはエンジニアリングの問題で、「実際に作ることができれば、実用化は可能だ」とアボット氏は話します。

他の案としては、使用済みのロケットをその場で放棄するのではなく、地球に帰還させる方法があります。

その場合、ロケットを制御しながら大気圏に再突入させるには、高度な技術を要するとともに、それを実現させるためのコストもかさみます。

そうなると、「デブリの落下により破損した家屋や建物に損害賠償を払う方が、安上がりになる」という意見もあるほどです。

しかし、家屋ならまだしも、人命が失われてしまってからでは遅いでしょう。

それゆえ、ブリティッシュコロンビア大の研究チームは「使用済みロケットの再突入を国際的に義務付ける議論を進めるべきだ」と強く主張しています。

実際、宇宙開発に伴う資材の落下は現実のものとなっています。

記憶に新しい事例としては、2021年5月に、中国の大型ロケット「長征5号B」の残骸が、モルディブ沖のインド洋に落下しました。

また、中国のロケットデブリは、2020年にも西アフリカに落下しており、さらに、今月24日に再び打ち上げられた「長征5号B」が、すでに制御不能の状態に陥り、数日内にも地上に落下すると見積もられています。

制御できなくなったスペースデブリが地上に被害をもたらすという考えは、もはや杞憂とは呼べない問題のようです。

本当に人命が失われる前に、なんらかの対処を考えていく必要があるでしょう。


参考文献

Scientists calculate the risk of someone being killed by space junk

元論文

Unnecessary risks created by uncontrolled rocket reentries


提供元・ナゾロジー

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