現在、病院外で利用する「使い捨ての検査デバイス」や、医薬品や食品などをセンサーで管理する「スマートパッケージング」が注目されています。
同時に、これらを稼働させるための「使い捨て小型電池」の需要も高まっています。
そこでスイス連邦材料試験研究所(EMPA)に所属するグスタフ・ニューストロン氏ら研究チームは、生分解性の紙電池を開発しました。
この紙電池は2滴の水を垂らすだけで電力を供給でき、目覚まし時計を動かすことにも成功しています。
研究の詳細は、2022年7月28日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
目次
紙とインクでつくられた「紙電池」
水滴で活性化する「紙電池」が目覚まし時計に電力を供給する
紙とインクでつくられた「紙電池」
電池は、正極または負極となる2種類の金属、電気の通り道である電解液、そして正極と負極の接触を防ぐセパレーターなどから成り立っています。
しかし従来の電池では、近年高まっている「使い捨て」の需要を十分に満たすことができていません。
そこでニューストロン氏ら研究チームは、「低コスト・高安全・低毒性」の新しいタイプの電池を開発することにしました。
彼らは、紙とインクに電池の成分を組み込むことで、使い捨ての条件を満たす「紙電池」を開発したのです。
まず、紙の片面には、正極として機能するグラファイトの粉末が含まれたインク(下図:Air cathode)が塗布されています。
そして裏面には、負極として機能する亜鉛の粉末が含まれたインク(下図:Zinc anode)が塗布されています。
また紙(下図:Paper membrane)には塩化ナトリウムが含まれており、ここに少量の水を垂らすことで溶解液がつくられます。
つまり、金属粉末を含んだインクが正極・負極に、塩水が電解液に、さらに紙自体がセパレーターの役割を担うことで、印刷されただけの紙が電池として働くのです。
紙電池の両端と電子機器を電線でつなぐなら、従来の電池と同じように電力を供給してくれます。
では、この紙電池にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
水滴で活性化する「紙電池」が目覚まし時計に電力を供給する
紙電池のメリットの1つは、「水で活性化される」点にあります。
研究チームによると、「乾燥させたままであれば、非常に長い寿命をもつ可能性がある」ようです。
そして電池として利用したい場合は、わずかな水を垂らすだけです。
実験では、1セルの紙電池(上図の半分)を20秒以内に活性化させるのに、2滴の水を垂らすだけで十分でした。
1セルの電圧は1.2Vであり、約1時間にわたって安定して電力を供給できました。
1時間以降は紙が乾燥するにつれて、大幅に電圧が低下しましたが、さらに2滴の水を加えることで、0.5Vでもう1時間維持できたようです。
一般的なアルカリ乾電池の電圧が1.5Vであることを考えると、まずまずの性能だと言えるかもしれません。
ちなみに実験では、2セルバージョンの紙電池が、液晶ディスプレイ付きの小型目覚まし時計に必要な電力を供給できることも証明されました。
またこの紙電池の材料は生分解性があり安価なので、使い捨てデバイスにはピッタリだと言えます。
もちろん、紙電池の研究はまだ初期段階であり、いくつかの改善点が残っています。
実用化するためには、電力密度の低さや、水の蒸発における機能低下の問題を解決しなければいけないでしょう。
それでも十分な将来性があります。
商品やデバイスに付いているタグが実は紙電池であり、必要な電力を供給してくれる、という未来もあるのかもしれません。
参考文献
A paper battery with water switch
Disposable printed paper battery, activated by water, may help reduce electronic waste
Water-activated paper battery may lead to greener disposable tech
元論文
Water activated disposable paper battery
提供元・ナゾロジー
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