プロ野球選手が新型コロナに感染したために試合が中止となったことが、話題となっています。 プロ野球では、全選手および全スタッフに、コロナ定期検査を実施しています。そのため、発症者だけでなく無症状感染者も見つかってしまうため、多くの選手が自宅待機となり、試合中止に追い込まれています。
無症状感染者まで見つける定期検査は中止して、発症者のみ検査をすればよいのではないかとする意見もあります。私はこの意見には反対であり、定期検査は続けるべきと考えています。
反対の理由としては、無症状感染者でも感染を広げる場合があることと、心筋炎の問題です。特に、後者は、激しい運動をするプロ野球選手の場合は、極めて重要な問題です。
無症状感染者は全く炎症がないわけではありません。炎症が軽微なため、自覚できる症状が存在しないだけです。軽微な心筋炎がある状態で、激しい運動をすると、心筋炎が増悪する危険があります。
心筋炎のガイドラインでは、「一過性に無症状で経過する軽症心筋炎は多い」と解説されています。無症状感染者でも、軽症心筋炎を完全に否定することはできません。したがって、無症状感染であっても、感染後7~10日間は、激しい運動は避けた方が無難なのです。
厚労省のWebサイトによると、新型コロナに伴う心筋炎の発症頻度は、日本では入院例において4人/4798人(834人/100万人)、米国では、12~17歳男性で501~649人/100万人、18~29歳男性で553~1,006人/100万人、英国では約1,500件/100万人となっています。
これらは胸痛などの症状を有する時の発生頻度なので、無症状感染者の発生頻度は、これらより遥かに高いと推測されます。仮に頻度を100倍と考えると約8万人/100万人の発生頻度となります。約8万人/100万人の頻度だとしても、99%が自然治癒すれば実際には問題は軽微です。しかし、激しい運動をすると、心筋炎増悪の確率が跳ね上がる可能性があるという点が問題なのです。
コロナ感染後ではありませんが、ワクチン接種8日後に中日ドラゴンズ・K投手が心筋炎で死亡しています。プロ野球界では、心筋炎の恐ろしさは広く認識されているはずです。したがって、今後も定期検査は続行されると、私は予想します。
ところが、プロスポーツ界の一部で、定期検査の中止を模索する動きがあるようです。更に、海外では、無症状感染者や軽症感染者の試合出場を認める場合もあると報道されています。MLBでは定期的なPCR検査を廃止したと報道されています。これらは、無症状者の行動制限は原則行わないという観点のみの判断であり、心筋炎の視点がすっぽり抜け落ちています。
一般の人に対しては、無症状の時に検査はしない、基本的に行動制限はしないという考え方に、私は特に異論はありません。しかし、激しい運動をするスポーツ選手の場合は、話は別です。無症状感染者が試合出場すると、文字通りの「命がけの戦い」となってしまうのです。
文・ 鈴村 泰/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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