積極的な店舗投資も実を結ばず 「商売の原点」に立ち返った改装へ

コロナ特需の終焉で正念場迎えるいなげや 復活のカギを握るのは……
決算発表を行ういなげやの本杉社長(画像=『DCSオンライン』より 引用)

 もちろん、いなげやとしてもコロナ禍という異常事態の中で、手をこまねいていたわけではない。スーパーマーケット事業では1店舗の新規出店のほか、11店舗で新規カテゴリーの導入やセミセルフレジの導入などを軸とした改装を実施。ドラッグストア事業では調剤薬局1店舗を含む7店舗を出店したほか、既存店20店舗で食品強化をはじめとした売場活性化を行うなど、積極的な店舗投資を行っていた。しかし結果として、これらの施策が売上・利益に大きく寄与することにはならなかった。

 決算発表の質疑応答では、ある証券アナリストから「既存店活性化の売上への寄与が乏しく、近年慢性的な苦戦が続いている」との厳しい指摘もあった。これに対して本杉社長は「これまでの店舗改装は、老朽化した店舗をリプレイスすれば売上が伸びるという(前提に立った)モデルだった。しかし時代は変化し、改装しただけでは売上は伸びず、伸びたとしても継続的な話にはならない」と指摘。他方でドラッグストアやディスカウントストアとの競争激化もあり、「今後の活性化策は欲しい商品が適正な価格で買えるということを追求していく。これは商売の原点だが、商品力、価格、接客を強化していく」とした。

ネットスーパー事業を本格稼働 22年度中に約1億5000万の売上規模めざす

 苦境が続くいなげやだが、今後の成長を左右することになるのが、中期経営計画の進捗と成果だ。同社は21年3月期を初年度とするグループ中期3カ年計画を実行しており、「グループの組織力と収益力の強化」を主たる目標に掲げている。

 具体的な取り組みとしては、①スーパーマーケット事業(既存店再構築・高コスト体質からの脱却)、②ドラッグストア事業(商圏シェア拡大・価格競争力の向上)、③商流・物流の再構築(センター機能最適化・サテライトを活用した商品供給など)、④新たな競争力の創造(新フォーマット開発・EC規模拡大)、⑤いなげやグループの成長を支える人財の育成(労働環境改善・ダイバーシティ推進など)、⑥グループガバナンス体制の構築、である。

 これらのうち注目したいのは④に関わるEC規模拡大についてだ。いなげやは07年6月に「Yahoo!ショッピング」に参画したのを皮切りに、「楽天」「アマゾン」など主要ECモールに出店。13年には自社サイト「いなげやオンラインショップ」を立ち上げている。また、一部店舗で実施してきたネットスーパー事業については楽天グループが運営する「楽天全国スーパー」への出店契約を締結、今年6月から本格稼働を開始する予定だ。このネットスーパー事業では、22年度に約1億5000万円の売上達成をめざす。

 ネットへの投資と並行して、22年3月期はスーパーマーケット事業で1店舗、ドラッグストアで7店舗の新規出店を計画。既存店改装についてはそれぞれ8店舗、20店舗で行い、この2事業で累計56億円の店舗投資を計画する。

 これらの取り組みにより、23年3月期の通期計画としては、スーパーマーケット事業の売上高が1971億円(対前期比101.3%)、ドラッグストア事業で446億円(同104.7%)、連結業績で営業収益2520億円(同100.2%)、営業利益36億円(102.1%)を見込む。

 コロナ禍の特需期間を除けば、ここ数年不振が続いていたいなげや。中期経営計画を実行し、リアルとネットの融合によって業績を立て直すことができるか、その手腕が問われるフェーズに入った。

提供元・DCSオンライン

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