自体重でできる上半身のエクササイズとして代表的なプッシュアップ(腕立て伏せ)ですが、負荷の増減という点においては、バーベルなどに比べ、大きな制限がかけられることになります。しかし、物理学や生体力学を理解することにより、様々なバリエーションが生まれてきます。このようなバリエーションは沢山ありますが、ただ闇雲にバリエーションエクササイズを行うのではなく、システマチックに行うことが必要です。今回はプッシュアップを「2つの軸」を基にバリエーションエクササイズを紹介していきます。
プッシュアップで負荷を増大させる方法(プログレッション)
ひとつ目の軸は、負荷の増減です。前にもお話しした通り、プッシュアップは体重の約半分の負荷がかかります。仮に体重が60㎏の場合、30㎏の負荷がかかるということになります。通常のプッシュアップが楽に行えるようになった場合、負荷を増大させる必要があります。負荷を増大させることに対して2つの方法があるので紹介します。
重力を利用する/デクラインプッシュアップ
写真1-1のように足部を高く上げることにより、上半身にかかる負荷を増大させることができます。この種目は大胸筋上部により刺激を与えることができます。体幹は斜めになり、支点と力点の距離が短くなるので、体幹にかかる伸展方向への負荷は軽減されます。バランスボールに足を乗せて行うことで、伸展以外に横方向(側屈)や回旋方向(回旋)への安定も求められ、体幹への負荷が上がります。もし、体幹を安定させる能力を高めたい場合はバランスボールを用いることをお勧めします(写真1−2)。
物理的な負荷を加える/バンド抵抗プッシュアップ
写真1−3のようにラバーバンドを用いることで負荷を高めることが可能になります。負荷の強弱は、バンドの強度やバンドの長さによる張力を変えることで増減させることができます。バンド抵抗プッシュアップの負荷の増減はフリーウエイトほど幅広くできませんが、ひとつだけ長所があります。
それは速度を速く行えるということです。バーベルを用いて素早くベンチプレスを行うと慣性が働き、かなり危険が伴いますが、ラバーバンドを負荷に用いると、バンドの張力で慣性をある程度抑えられるため、素早くプッシュアップを行うことができるのです。
スピードプッシュアップを行うには、フリーウエイトよりもバンドの方が安全にエクササイズを行えるということになります。
基底支持面を小さくする/ワンハンドプッシュアップ
写真1-4のエクササイズは片手で行うことにより、単純に大胸筋にかかる負荷が倍になるだけでなく、体幹の安定性も求められます。通常のプッシュアップは単純に上からの重力負荷がかかり、体幹の伸展に対する負荷(アンチエクステンション)だけになりますが、片腕でプッシュアップを行うことにより、体幹に対して回旋させようとする負荷もかかるので、抗回旋(アンチローテーション)の負荷もかかります。特にゴルフ、野球など体幹を回旋させるようなスポーツを行っている人は、このアンチローテーションのエクササイズが腰の障害予防にも効果を発揮します。
最初は両足の幅を広げて基底支持面を広くとる姿勢から始めていきます。大切なのは体幹を真っすぐの状態に保つことです。また、体幹が地面に対して水平の位置を保つことも大切です。
重力加速度を利用する/ジャンピングプッシュアップ
写真1-5の、大胸筋の弾性を利用して爆発的にジャンプしながら行う、ジャンピングプッシュアップは自身の体重に加えて重力加速度による負荷も増大するので、大変強度の高いエクササイズになります。また、反動を用いることで、「筋肉は一度引き伸ばされてから強い力を発揮する」というストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)を利用するため、よりスポーツに近い力を発揮することが可能になります。
この際の注意点も「体幹は一直線」を維持するということです。特に地面に着地した際に、体幹が反ってしまう傾向にあるので注意が必要です。
プッシュアップで負荷を減少させる方法(リグレッション)
インクラインプッシュアップ
女性など、自体重でプッシュアップができない人は、負荷を軽くすることが必要になります。この場合、負荷を増大させることとは逆に、写真2−1のように頭を足よりも高くした姿勢でプッシュアップを行うことにより、重心が上半身から下半身に移動して、上半身にかかる負荷が軽くなります。
その他、膝をついた状態でプッシュアップを行う方法もありますが、インクラインプッシュアップの方が、体幹を安定しやすいという点でこちらのエクササイズを採用することを勧めます。
このようにプッシュアップは機能性に優れ、バリエーションも多く大変優秀なエクササイズなのでトレーニングを行っている人全てに、お勧めできます。
著者プロフィール
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/NSCACSCS/NPO法人JFTA理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF全日本ボディビルディング選手権6位。
提供元・FITNESS LOVE
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