「新しい職場に変わってから、あの人は豹変してしまった」

誰もがこのように感じることがあり、豹変の対象は自分自身も例外ではありません。

新しい研究では、職場での慢性的なストレスが遺伝子の発現に影響を与え、ヒトの性格そのものを変えてしまうと判明しました。

この研究は、アメリカ・イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に所属する組織行動学者ジャービス・スモールフィールド氏ら研究チームによって行われ、3月16日付けの学術誌『the Journal of Management』に掲載されました。

目次
エピジェネティクスの観点から性格の変化を調べる
慢性的なストレスはエピゲノムを変化させ、性格を根本的に変えてしまう

エピジェネティクスの観点から性格の変化を調べる

従来の組織行動学では、ヒトの性格は職場などの組織の影響を受けずに安定しているものと考えられてきました。

ところが新しい研究では、遺伝学とエピジェネティクス(遺伝子発現の研究)の観点から、性格の変化に対する新しい理解が示されています。

エピジェネティクスとは、DNA配列そのものではなく、遺伝子の一部の発現を変化させる研究です。

慢性的な仕事のストレスはヒトの性格を変えてしまう
(画像=エピジェネティクス:エピゲノムによって遺伝子のオンオフ(発現)が切り替わる / Credit:IHEC、『ナゾロジー』より 引用)

そして研究チームは、性格の変化とエピジェネティクスについて次のように述べています。

「私たちの性格特性の一部は遺伝に由来していますが、性格の構成自体は遺伝子だけに依存していません。むしろ、遺伝子のどの部分が発現しているかが重要です」

「遺伝子は一般的に不変ですが、その発現は不変ではありません。」

つまりエピジェネティクスの観点で見ると、親から受け継がれた遺伝子は変わりませんが、その中のどの部分が発現するかで、私たちの性格が変化するのです。

では遺伝子の発現に影響を与えるものとは何でしょうか?

研究チームは、環境の変化やそれに伴うストレスが大きく関係していると結論付けています。

慢性的なストレスはエピゲノムを変化させ、性格を根本的に変えてしまう

研究チームによると、職場のストレスは最初に神経生物学的な短期的影響を与えるとのこと。

具体的には、私たちがストレスを感じると、脳の視床下部・下垂体、副腎、ドーパミン神経系、セロトニン神経系を介して短期的な生理反応が起こります。

そしてこの生理反応によって人格も短期的に変動。

ここまでは頻繁にあることで、「ストレスでどうかしていたよ」などと後から冷静に振り返ることもあるでしょう。

ただしストレスが慢性化すると、これら生理的負荷が時間経過とともにエピゲノム(遺伝子の発現を決める情報)を変化させるようになります。

エピゲノムが変化することで性格が根本的に変わってしまうのです。

スモールフィールド氏は、「今回の研究で興味深いのは、遺伝子発現が、人生のステージが変わったり環境が変わったりしたときに、変化するメカニズムをもっている点です。人は本当に順応性の高い生き物なのです」と述べています。

慢性的な仕事のストレスはヒトの性格を変えてしまう
(画像=慢性的なストレスが遺伝子発現に影響を与え、性格が変わる / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

更に研究チームは、性格の変化が、軽度かつ慢性的な職場のストレスによっても引き起こされるおそれがあるとし、職場の環境を少し変化させるだけでも働く人々に大きな影響を与えると主張。

また同じ環境・仕事でも、性格特性によってプレッシャーを脅威的なストレスと感じるかどうかは異なるとのこと。

そのためチームは、性格テストを採用段階だけでなく、雇用期間中にも採用すべきだと提案しています。

結論として、職場のストレスとは全体的に大きいか小さいかという単純なものではなく、個人がどの程度のストレスを感じているか見極めることが大切だと言えます。

雇用者にとってこれは簡単なことではありません。しかし、個人の性格を根本的に変化させてしまうことを考えると、ストレス対処は急務であり必須なのです。


参考文献

Chronic work stress can change our personalities

元論文

An Explanation of Personality Change in Organizational Science: Personality as an Outcome of Workplace Stress


提供元・ナゾロジー

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