新天地が楽園とは限らなかったようです。

米国のシカゴ大学(University of Chicago)の新たな研究から、手足を進化させ陸上に進出した魚たちのなかに、早々と水中に戻った種があることが判明しました。

陸を歩くようになった魚の存在は、脊椎動物の陸上進出に向けた明白な「第一歩」のように思われがちですが、当時の魚たちにとって陸上生活は厳しく、水はまだまだ魅力的な帰還場所だったようです。

研究内容の詳細は2022年7月20日に『Nature』にて掲載されました。

手足を進化させ陸にあがったのに、すぐ水中へもどってしまった魚

手足を進化させ陸にあがったのに、すぐ諦めて水中へ戻ってしまった魚がいた
Credit:National Science Foundation Multimedia Gallery . Canva . ナゾロジー編集部編(画像=『ナゾロジー』より 引用)

今から約4億年前、魚類の一部が手足や肺呼吸能力を獲得し、陸上進出を開始しました。

彼らは現在地球に生息する全ての両生類・ハ虫類・鳥類・哺乳類(四肢動物)の先祖であり、人類がいまこうして陸上で文明を築けているのも、彼らの功績によるものとなっています。

しかし、もし彼らが陸への適性をさらに高める代わりに、水中生活に引き返してしまったとしたら、どうでしょうか?

シカゴ大学の研究者たちによって行われた研究では実際に、それ(水中への引き返し)が起きてきたことが判明しました。

これまでの研究により、陸上生活に適応しはじめた、複数の魚の化石が発見されてきました。

2004年に発見された「ティクターリク」もそのうちの1つであり、ティクターリクのヒレには陸上で体を支えるための筋肉が付着させるための特徴的な「上腕骨」の形がみられました。

手足を進化させ陸にあがったのに、すぐ諦めて水中へ戻ってしまった魚がいた
Credit:National Science Foundation Multimedia Gallery . Canva . ナゾロジー編集部編(画像=『ナゾロジー』より 引用)

この特徴的な上腕骨の形状は陸上を歩き始めた魚に共通したものであり、普通の魚の化石と見分けるにあたっての重要なポイントとなります。

一方、研究者たちはティクターリクの発見と同時に、別の奇妙な化石も発掘していました。

その化石はティクターリクよりも小ぶりでしたが、同じような牙と顎(あご)を持ち、獲物に噛みついて口の中に引き込む捕食者(肉食)であったことを示していました。

そのため研究者たちは当時、ティクターリクの子供の化石だと思っていました。

ですがヒレ部分の骨格構造をCTスキャンで分析したところ、上腕部分の構造がティクターリクとは微妙に異なっており、近縁の新種(キキクタニアと命名)であると判明します。

しかし最も驚くべきは「キキクタニア」の上腕骨の構造にありました。

キキクタニアの上腕骨は普通の魚とは違って「陸上を歩く魚」の特徴(指のようなものなど)を残しているものの、体を支えるだけの筋肉が付着できるような構造をしておらず、ヒレは大きく広がっており、陸上よりも水中での生活に適した形状をしていたのです。

さらにキキクタニアの体を調べると、周囲の水の流れを検出するための感覚管も存在していることが示されました。

この結果から研究者たちは、キキクタニアは陸上を歩いていた魚が、再び水中生活に適応するように進化したと結論しました。