日本でも人気の高いペンギンですが、最新の研究で、ペンギンは、鳥類のなかで最も進化の遅いグループであることが明らかになりました。
米ブルース博物館(Bruce Museum)、デンマーク・コペンハーゲン大学 (Copenhagen University)らの国際研究チームは、ゲノムデータと化石データを用いて、過去6000万年におよぶペンギンの進化の歴史を調査。
その結果、ペンギンの進化速度は、時代が下るにつれて大幅に低下していることが判明したのです。
これは現代のペンギンが、古代のペンギンに比べて、気候変動への適応が困難であることを意味します。
近年の加速する気候変動は、ペンギンたちにとって最大のピンチとなるかもしれません。
研究の詳細は、2022年7月19日付で科学雑誌『Nature Communications』に掲載されています。
目次
ペンギンはどのように進化してきたのか?
2050年までにコウテイペンギンの7割が消える?
ペンギンはどのように進化してきたのか?
ペンギンの最古の祖先とされる「クポウポウ・スティルウェリ(Kupoupou stilwelli)」は、恐竜が絶滅した直後の6000万年以上前に生息していました。
このときにはすでに、飛行能力を失くしており、遊泳や潜水に有利なボディプランを進化させています。
しかし、現代のペンギンにつながる最後の共通祖先は、もっと後の時代に出現しました。
これまでの研究によると、その共通祖先は約2400万年前に存在したと言われていますが、今回の研究結果は、ペンギンの進化をかなり後に押しやっています。
研究チームが、現生種の遺伝子サンプルと化石データを比較分析した結果、現代のペンギンの共通祖先は、約1400万年前に出現したことがわかったのです。
この時期は「中新世気候遷移(mMCT)」と呼ばれており、多くの二酸化炭素が深海に固定されたことで、世界の気温が17℃も低下しました。
そのため、ペンギンの祖先に、寒い環境にすばやく適応するための進化圧がかかったと見られます。
この時点で、ペンギンは現在のニュージーランドから南米や南極大陸に拡大していました。
mMCTの時代に氷床が拡大し、新しい海流が形成されると、ペンギンはその後、オーストラリアやアフリカにも広がっています。
しかし、ゲノムおよび化石データを見ると、ここからペンギンの進化は長い停滞期に入ることがわかりました。
約1000万年もの間、目新しい進化はしておらず、今世界に現生する18種のペンギンが出現したのは、過去300万年以内の出来事だったのです。
この急速な種分化について、研究チームは「最終氷期(約7万〜1万年前)に至るまでの、あるいは、それに続く急な気候変動が原因で、一時的に進化スピードが速まったのだろう」と指摘します。
その後の進化スピードはまたピタリと止まり、現在に至っています。
そして、約6000万年前から続くペンギンの系統進化を概観すると、その進化速度は現代に近づくにつれて、大幅に低下していることが示されました。
研究主任のダニエル・クセプカ(Daniel Ksepka)氏は「ペンギンの進化が、これほどまで減速した理由は、鳥類にしては大きな体や繁殖の遅さが関係しているかもしれないが、まだ解明されていない」と話します。
歴史的に見ると、ペンギンは急な気候変動が起こったときに迅速な適応を遂げていたようです、現代に至る進化速度の低下を見ると、近年の急速な気候変動には追いつかない可能性があります。
では実際に、ペンギンは今、どれくらい崖っぷちに立たされているのでしょうか?
2050年までにコウテイペンギンの7割が消える?
南極は今、温暖化にともない急速に変化しており、とくに西部の氷床は「世界で最も温暖化が進んでいる地域」の一つに指定されています。
同地は、1957年から2006年にかけて、10年間ごとに約0.2⁰Cと、他の大陸の約2倍の速度で温暖化したと言われています。
また、気温の上昇により、氷床の融解速度も速くなりました。
南極のスウェイツ氷河は、すでに世界の海面上昇の約4%を占めており、2030年までには崩れ始めると予測されています。
氷河全体が崩壊した場合、海面が世界で約65cm以上も上昇し、モルディブ、セーシェル、ハワイの一部など、低地の島々が水没の危機に瀕するでしょう。
その影響は、当然ながら南極を中心に生息するペンギンたちにも及びます。
ペンギンは繁殖や休息、換毛のために海氷を利用するため、氷の喪失は、ペンギンの生活そのものを脅かします。
そして、現代の気候変動はあまりに速すぎて、進化速度の落ちているペンギンでは適応しきれない可能性が高いのです。
クセプカ氏は、こう話します。
「ペンギンには、何万年、何百万年という時間スケールで変化する気候に適応する能力は備わっています。しかし、私たちは今、前例のない速さの地球温暖化に直面しているのです。
もし南極の氷床が急速に融解してしまえば、ペンギンが新しい環境に適応して進化するのに十分な時間はないでしょう」
専門家によると、現在の温暖化のスピードでは、最大種であるコウテイペンギンは、2050年までにコロニーの約70%が全滅すると予測されています。
何千万年も生き続け、幾度となく気候変動を乗り越えてきたペンギンですが、新たな”人新世(Anthropocene)”を生き抜くことができるかどうかはわかりません。
※ 人新世:人類が地球の地質や生態系に与えた悪影響に注目して提案されている、地質時代における現代を含む新たな区分
ペンギンの絶滅を防ぐためにも、人為的な温暖化を抑制しながら、進化スピードの減速についてさらに理解を深める必要があるでしょう。
参考文献
Penguins Are Among the World’s Slowest-Evolving Birds: Study
Penguins are some of the slowest-evolving birds in the world
元論文
Genomic insights into the secondary aquatic transition of penguins
提供元・ナゾロジー
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