すべての脊椎生物は魚からスタートしてさまざまな種へと進化していきました。
海から陸へと生物が進出したとき、そこでは何が起こったのでしょうか?
カナダ・グエルフ大学(U of G)の2人の研究者は、水陸両用の魚「マングーブ・キリフィッシュ(mangrove killifish)」を陸に上げて飼育した場合、ずっと水中で飼育した個体より脳が発達したと報告をしています。
これは、陸生動物への変化の過程で脳が発達した可能性を示唆しており、進化の基礎となる発見です。
研究の詳細は、科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B』に6月16日に掲載されています。
目次
最大2カ月も陸で生存できる「マングーブ・キリフィッシュ」
定期的に陸で運動させた魚は脳が発達する
最大2カ月も陸で生存できる「マングーブ・キリフィッシュ」
中南米のマングーブ域に生息する「マングーブ・キリフィッシュ」または「マングローブ・リウルス(mangrove rivulus)」(学:Kryptolebias marmoratus)と呼ばれる魚は、非常に変わった性質を持っています。
種としてはメダカの近縁ですが、雌雄同体で脊椎動物では唯一自家受精することができます。つまり自分のクローンを作れます。
塩分に対しても広い耐性があり、塩分濃度0%~68%まで生息が可能です。
これだけでもかなり驚きですが、今回の研究が着目しているのはもう1つの彼らの生態です。
マングローブ・キリフィッシュは水陸両用で、陸から上がっても約2カ月間(最大66日間)生存することができるのです。
このとき彼らは皮膚から空気を吸い込んで呼吸します。
陸上のマングローブ・キリフィッシュは尻尾をバネに使ったジャンプをして、水場を探したり木の上に移動することが知られています。
このため、ジャンプする魚とか木登りする魚とも表現されることもあります。
研究者のジュリア・ロッシ氏のツイート
しかし、いくら適応できるとはいえ、水中と陸はまったく異なる環境です。
今回の研究者は、このマングローブ・キリフィッシュが陸上に上がって活動したとき、脳になにか影響が出るのではないかと考えました。
そこで、数匹のマングローブ・キリフィッシュを捕まえて、異なる環境で飼育した場合の彼らの脳の変化を調査したのです。
定期的に陸で運動させた魚は脳が発達する
実験では、1つのグループは水の入ったボウルの中で2カ月生活させ、もう1つのグループは数日ごとに水を抜いて陸に上げ、ペンでつついて3分間ジャンプさせました。
2カ月後、研究者はそれぞれの魚をボウルから取り出して、脳を解剖しました。
すると、定期的にジャンプさせられていた魚は、大脳皮質に当たる部分(終脳背側部の外套)の細胞が、新しい環境に適応するため最大46%も多く成長しているとわかりました。
魚類は原始的な生物のため、脳の作りも陸上の動物とは異なっています。
各部位の存在は同じですが、特に大脳は陸上の動物と比べ非常に小さくなっています。
さらに、研究者は解剖しなかった魚を、ゴールにエサをおいた迷路に入れて実験しました。
すると、陸にあげられていたグループの方が、ずっと水中飼育したグループより、早く迷路をクリアできたのです。
研究者はこうした脳の発達は、地上でジャンプ運動をすることで、魚が空間学習することで起きたのだろうと説明しています。
鳥類などは、空間を把握するために脳が大きく進化したことが知られています。
しかし、今回のケースは世代を超えた脳の進化ではなく、一個体の生涯において陸での生活が脳を発達させることを示しています。
この事実は非常に興味深い発見で、古代の海の生物は、海岸へと飛び上がったり、這い回ったりすることでより高度な脳を発達させた可能性があります。
これは、陸生動物へと生物が発達していくための基礎となる知識です。
生物はいかにして海から陸へ上がったのか? 今回の研究は、その謎に満ちた進化論の一端を垣間見せてくれます。
参考文献
A Hint About How Life Made It Onto Land(The Atlantic)
Study of mangrove rivulus fish hints at mechanism for brain evolution of land animals(Phys)
元論文
Does leaving water make fish smarter? Terrestrial exposure and exercise improve spatial learning in an amphibious fish
提供元・ナゾロジー
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