ユニセフによると、14億2000万人もの人が水不足の地域に住んでいます。
そこでアメリカ・ノースイースタン大学(Northeastern University)機械産業工学部に所属するイー・ジャン氏ら研究チームは、動物のフンを利用して海水から飲料水を作る方法を開発しました。
フンを加熱してできた粉末状の炭素が、海水から塩分を除去するフィルターとして働くのです。
研究の詳細は、9月22日付の科学誌『Cell Reports Physical Science』に掲載されました。
目次
海水を飲料水にする取り組み
「動物のフン」のフィルターが海水を飲料水に変える
海水を飲料水にする取り組み
飲料水不足を解決する1つの方法は、海水から塩分を取り除き淡水化することです。
一般的な方法では、海水を蒸発させる際に塩分を取り除くフィルターが必要になります。
とはいえ、これらフィルターの材料は製造コストが高く、環境にやさしくありません。
さらに淡水化させるためのすべてのプロセスで電力を必要とします。

そこで研究チームは、太陽光を利用して電気のいらない淡水化の方法を探すことにしました。
水不足の地域でも容易に入手できる材料と太陽光で機能する新しい淡水化フィルターを開発しようとしたのです。
そして彼らが注目したのが、肥料として用いられている動物のフンです。
「動物のフン」のフィルターが海水を飲料水に変える

新しく開発されたフィルターは、動物のフンを1700℃で加熱して作られます。
これによりフンに含まれるバクテリアが死滅し、粉末状の炭素ができあがるのです。
そして、その黒い粉を使って吸水性の高いフィルターを作成。

太陽光をフィルターに当てると、フィルターの下の海水が蒸気になって通過します。
その際、フィルターが塩分を除去してくれます。
そしてフィルターを通過した蒸気を凝縮すると、淡水が得られるというわけです。
実際にこの方法で得られた水を解析したところ、そのナトリウム濃度は、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)が定めた飲料水の基準を十分にクリアしていました。

ちなみに研究チームは、動物のフン以外にも、木の葉、イカ墨、カニの殻、スズメバチの巣を原料とする同様の淡水化フィルターを作ることに成功しています。
チームによると、「これら天然素材は優れた性能をもっており、低コストで入手しやすく、製造も簡単」とのこと。
そしてこの新しい淡水化フィルターは、従来の淡水化フィルターを製造するのが難しい地方の村や町で活躍すると考えられます。
地元の人々が農場から動物のフンや木の葉を集めて燃やすだけで、簡単にフィルターの材料が得られるからです。
世界中の飲料水不足を解決する可能性を秘めているため、今後の進展にも期待したいものです。
参考文献
MANURE MAKES DRINKING WATER? AN UNLIKELY SOLUTION TO A GLOBAL CRISIS
元論文
Farm-waste-derived recyclable photothermal evaporator
提供元・ナゾロジー
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