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量子力学で熱力学第2法則が逆転
粒子が相関している時、時間の矢が逆転する

私たちは、時間を常に矢のように前へ前へと進んでいるものと感じています。
物理学者はこれを「時間の矢」という概念で考えます。そして、この一方通行の時間という概念は、人間の尺度で見た生命や物体に関しては正しいように思えます。しかし、量子の尺度では、「時間の矢」が逆転することがあり得るようです。
Reversing the thermodynamic arrow of time using quantum correlations – arXiv.org
量子力学で熱力学第2法則が逆転
エアランゲン・ニュルンベルク大学の研究チームは、量子力学において熱力学第2法則が逆転することが実証されたと発表しました。この可能性については以前より理論物理学者たちが予想しており、日本でも話題にあがりました。今回の実験で、それが可能である証拠を得たことになります。
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「この新しい結果は、時間の矢が絶対的な概念ではなく、相対的な概念で有ることを示します。」とドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学の理論物理学者、エリック・ルッツは言います。
物理学者は、時間の矢を熱力学第2法則をつかって語ります。つまり、乱雑さ、いわゆるエントロピーは時間経過によって増加するという法則です。それを完璧に表している例は、熱の伝導です。寒い日、周りの温度が低ければ熱いコーヒーは冷めていきますよね。熱は温度の低い物の方に拡散していくもので、逆に集中するということはありません。
しかし今回の実験で、寒い日、コーヒーから熱が拡散するのとは異なり、量子粒子が熱エネルギーを冷たい粒子から追い出し温かい粒子へと転送できることが示され、第2法則が逆転することがわかりました。もし第2法則がこのように逆転できるとすると、時間の矢が逆転できるという可能性も現実味を帯びてきます。
粒子が相関している時、時間の矢が逆転する
この研究は、相関を持った粒子の概念に頼っています。量子もつれについて聞いたことがあるかもしれません。この考えは「もつれ」を持つおのおのの粒子の状態が残りのグループの条件でのみ記述出来るというものです。これと同じように、相関した粒子はリンクし情報を共有するようになります。これらの結びつきは、もつれた粒子ほどには強くありません。
クロロホルム分子の水素と炭素を使うことで、科学者達はその原子のなかの2つの核の温度を変化させました。水素の核を炭素の核より熱くしたのです。この粒子が相関していない時、熱は熱い水素の核から流れて、冷たい炭素を温めました。そう、時間の矢は予想通り前へと進んだのです。
しかし、科学者が粒子の相関を観察した時、それとは反対に、水素がより熱くなり、炭素がより冷たくなりました。このことは、顕微鏡レベルで時間の矢が逆転したことを示しています。
この実験は、タイムトラベルのように文字通り時計を巻き戻すわけではありません。しかし、熱力学的プロセスの方向が相対的であることを示唆しています。
科学の発展によって、時間は相対的なものだということがわかってきました。人間が時間の相対性を感覚で「理解」できる日は、果たしてくるのでしょうか。
via: pbs.org, newsweek.com / translated & text by nazology staff
提供元・ナゾロジー
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