鮭や渡り鳥、蝶などの動物は磁気感覚というものを持っており、地球の磁場を利用して餌場や繁殖地へ正確に移動できることが知られています。

しかし、この磁気感覚はどのようにして獲得された機能なのでしょうか?

今回、米国オレゴン州立大学を筆頭とした国際研究チームは、鮭やその他の動物の特殊な受容体細胞内に形成されるマグネタイト結晶が、バクテリアによって開発された古代の遺伝子システムに根ざしており、大昔に動物に取り込まれた可能性があると明らかにしました。

この説は、鮭の鼻の細胞内から見つかったナノスケールの磁性体から得られた証拠に基づいています。

研究の詳細は、1月18日付で科学雑誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載されています。

目次

  1. 動物の磁気感覚はどこから来たのか?

動物の磁気感覚はどこから来たのか?

鮭が持つ磁気センサーはどこからやって来たのか?
(画像=地球には磁石のような磁場があるが、生物はそれをどうやって感じ取っているのか? / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

一部の動物は地球の磁気を敏感に感じ取り、自分の目指す場所へのナビゲーションとして利用しています。

しかし、動物の細胞内で磁性体(磁性を帯びることが可能な物質)を含む細胞は非常に少ないのです。

研究者は、動物の磁気感覚の根底にある細胞の磁性体を正確につかみ、その感覚メカニズムを解明しようと努力していますが、この問題はまだ明確に解決されてはいません。

「磁気受容体を見つけることは、干し草の山から針を見つけようとするようなものです」

こう語るのは、今回の研究の筆頭著者であるオレゴン州立大学の研究者レネー・ベリンジャー(Renee Bellinger)氏です。

しかし、彼らは今回、この針の輝きを非常に明るくする発見をしたのです。

今回の研究は、20年以上前ニュージーランドのオークランド大学で、マイケル・ウォーカー(Michael Walker)が行った研究に基づいています。

この研究でマイケルは、鮭の鼻組織に磁気感覚を機能させるマグネタイト(磁鉄鉱)が含まれているだろうと考えていました。

彼は磁鉄鉱の結晶が鎖のように連なって、コンパスの針のように機能している可能性を期待していたのです。

しかし、今回調査してみたところ、そのような大きな磁性体は見つかりませんでした。

代わりに、小さな磁鉄鉱の結晶が卵のように細胞内に分布して小さなクラスターを組織していることがわかったのです。

このような小さな結晶として細胞内に磁鉄鉱が現れる形は、バクテリアがミネラル(鉱物)を生成するプロセスに類似しています。

これは、生物の磁気受容体細胞が持つ磁鉄鉱の結晶と、バクテリアの磁鉄鉱生成が、共通の進化遺伝的歴史を持っていることを示唆しています。

つまり生物細胞を磁石として発達させるメカニズムは、20億年以上前のバクテリアによって開発されたものであり、それがのちに動物内へと受け継がれたと考えられるのです。

これは、動物のエネルギー生成を制御するミトコンドリアの進化と似ている可能性があります。

鮭が持つ磁気センサーはどこからやって来たのか?
(画像=ミトコンドリアは生物の細胞にエネルギーを与える機関として取り込まれたバクテリア / Credit:canva,『ナゾロジー』より 引用)

ミトコンドリアも古代のバクテリアが由来であり、その後生物の細胞内に取り込まれて共生関係を結ぶようになりました。

まだ、生物の磁気感覚に関する全容が解明されたわけではありません。

しかし、今回の研究は、生物の細胞が磁石として機能する進化の歴史を理解するための第一歩であると研究者たちは述べています。

今回の発見に関連する遺伝子をマーカーとして利用し調査していくことで、今後、なぜ一部の生物だけが磁気を利用した正確な移動戦略を採用できるようになったのか、という謎に迫ることができるかもしれません。


参考文献

New research on magnetite in salmon noses illuminates understanding of sensory mechanisms enabling magnetic perception across life

元論文

Conservation of magnetite biomineralization genes in all domains of life and implications for magnetic sensing


提供元・ナゾロジー

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