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見えないブラックホールを見る
暗いクエーサー?

存在するはずがない? 謎のブラックホールが発見される
(画像=Credits: Hubble,NASA、『ナゾロジー』より 引用)

Point

■NASAは、これまでの予想では存在するはずのないタイプのブラックホールをハッブル宇宙望遠鏡で観測したと発表した

■観測されたのは非常に暗い、吸い込む物質が欠乏した状態のブラックホールで、このタイプは通常ドーナツ型の降着円盤を作る

■しかし、今回発見されたブラックホールは暗い欠乏状態にも関わらず、宇宙一明るいクエーサーと同様の滑らかなパンケーキ型の降着円盤を作っているという

ブラックホールと一口に言っても、そこにはいろいろなタイプがある。

宇宙一明るい天体と言われるクエーサーは、超巨大なブラックホールの周りを豊富な物質が取り巻いている状態だ。この豊富な物質は、回転しながら激しい摩擦を起こし、強烈な輝きを放つ。

一方、あまり吸い込む物質の少ないブラックホールは、とても暗くなる。

今、天文学者たちが注目しているのは、暗いブラックホールだ。なぜなら、明るいとブラックホール近傍の様子が眩しくてよくわからないからだ。

この暗いブラックホールは吸い込むもののない栄養失調状態のため、中心近くほど物質が少なくなり、少し離れた外周を重力に捕らわれたガスや塵が巡るドーナツ型になる。

今回のNASAの報告している研究チームは、約1億3000万光年離れた渦巻銀河『NGC3147』にある、太陽の約2億5000万倍の質量を持った超大質量ブラックホールの観測を行っているのだが、それは吸い込む物質の乏しい暗いブラックホールだ。

ところが、このブラックホールの降着円盤が予想されたドーナツ型ではなかったという。眩しくて見えない状態となる物質豊富なクエーサーと同じ、平たい円盤を発生させているというのだ。これはこれまでの予想では存在するはずのないタイプのブラックホールだ。

この発見により、これまで見ることのできなかったブラックホール近傍の降着円盤の様子を観測できると、天文学者たちは大いに湧いているという。

この研究はイタリアローマ大学、カルフォルニア大学など天文学者の国際チームによる論文として、王立天文学会月報『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』に7月11日付けで掲載されている。

HST unveils a compact mildly relativistic broad-line region in the candidate true type 2 NGC 3147

見えないブラックホールを見る

ブラックホールは巨大すぎる重力のために、光子さえも吸い込んでしまうため、直接その姿を見ることはできない。

しかし、宇宙のブラックホールは今、次々と新しいものが見つけ出されている。なんで見えないのに見つかるのかというと、ブラックホールの周囲には様々な痕跡が現れるからだ。

ブラックホールはその強い重力により、周囲の天体や物質をどんどん吸い寄せていく。だが、太陽などの恒星と同様、多くの天体はそのままストンとブラックホールに落ちていくわけではない。軌道を描いて周囲を回転することになる。

こうしてできるのが、降着円盤というブラックホールの周囲を包むガスや塵の集まりだ。

これらはブラックホールの中心に近づくほど密度を増し、激しい摩擦を起こすことで明るく輝く。

存在するはずがない? 謎のブラックホールが発見される
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

物質が豊富な宇宙に浮かぶブラックホールでは、降着円盤がパンケーキのような滑らかに繋がった円盤型になる。

だが、吸い込む物質が豊富で活動的なブラックホールは、この降着円盤の輝きが眩しすぎて中心の詳細な様子がよくわからない。

一方、クエーサーほど若くない物質の少なくなった活動銀河だと、降着円盤は物質が吸い込まれても補充されず中心が凹んで、離れた外周を軌道に乗ったガス雲が取り巻くドーナツ型となる。

こうした天体は暗いため発見が難しいが、きちんと放射を捉えることができればブラックホール近傍まで観測できるありがたい天体となる。

ただ、この場合、ドーナツ型の雲が邪魔をして結局中心部の様子はよくわからない場合も多い。

存在するはずがない? 謎のブラックホールが発見される
(画像=Credit:alma、『ナゾロジー』より 引用)

今回NASAが発表した渦巻銀河『NGC3147』の中心にある超大質量ブラックホールも、このタイプの物質が欠乏した暗い天体だった。

暗いクエーサー?

このタイプのブラックホールは、本来なら降着円盤はドーナツ型になるはずだ。しかし、観測を行うとそれは物質が欠乏していながらも、薄い平たい円盤になっているという。

円盤は光速の10%という速度で回転しており、地球に向かう回転方向では明るく輝き、逆に地球から離れる方向への回転では暗くなっている。こうした効果はアインシュタインの特殊相対性理論により予言されたもので、重力の強さと速度が光子の見え方に影響している。

「これほど明確な可視光で一般相対性理論と特殊相対性理論の両方の効果を見たことはない。これらは相対性理論を含めないと理解できないデータだ」と研究者は興奮気味に語っているという。

これは誰も存在するとは思っていなかった、非常にスケールダウンされたタイプのクエーサーといえる。1000倍から10万倍の光を放つブラックホールに見られるものと、同じタイプの降着円盤が存在していたのだ。

これにより、これまでは観測が難しかったブラックホール近傍の降着円盤の様子が観測できるようになった。

この発見を元に、研究チームは同タイプの天体を他にも探していきたいと語っている。

まだまだ、宇宙には天文学者の予想を超えた神秘が潜んでいるようだ。この発見により、ブラックホールの研究も大きく躍進するかもしれない。

reference:nasa/ written by KAIN

提供元・ナゾロジー

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