真冬に生足を出している女子高生に対して、誰もが「寒くないの?」と疑問を浮かべます。

彼女たちは、こうした疑問に対して「我慢してる」と答えますが、冬の寒さはおいそれと我慢で乗り越えられるものでしょうか?

サウスフロリダ大学の研究チームは、こうした冬に肌を露出したファッションを楽しむ女性の心理学的な調査を行い論文を発表しました。

これによると、自己対象化(自分を客観的に見る)傾向が強い人ほど、冬の肌の露出に対して寒さを感じにくくなっているとのこと。

どうやら真冬に生足を出している女子高生は単に「我慢している」のではなく寒さそのものを「無視」する能力を獲得していたようです。

研究の詳細は、科学雑誌『British Journal of Social Psychology』に掲載されています。

目次
寒いけどおしゃれのために我慢している
寒いけど我慢できてしまう理由

寒いけどおしゃれのために我慢している

日本の女子高校生は、北海道でも真冬にストッキングも履かずに生足を出している、というのはたびたび話題にのぼります。

「寒くないの?」というのはよく聞かれる疑問で、本人たちにインタビューしている企画も、雑誌やネット記事に多く存在します。

こうした問いに対して、本人たちは「当然寒いけど我慢している」と答えるようです。

真冬の女子高生はなぜ生足でも平気なのか? 我慢だけではない心理メカニズム
(画像=寒くないの?の問いには寒いけど我慢しているという答えがほとんど。 / Credit北海道ファンマガジン,北海道の女子高生はなぜ真冬でも生脚+制服なのか聞いてみた @北海道札幌市 Female high school student(Winter) in Sapporo,Hokkaido、『ナゾロジー』より 引用)

しかし、こうした答えを聞いても依然疑問は解消されません。

真冬に肌を晒す寒さというものは、果たして単純に我慢するだけで耐えきれるものでしょうか?

もちろんこうした事例は女子高生の制服に限った話ではありません。

真冬でも肌の露出が多いファッションを楽しむ女性は多く存在します。

海外でも、やはり寒い冬に肌を露出した服を着る女性に対して、「寒くないのか」と考えるのは一般的な現象のようです。

そこで今回の研究の筆頭著者であるロクサーヌ・フェリグ(Roxanne N. Felig)氏は、この疑問の背景にある、彼女たちが冬の寒さを我慢できる心理学的なメカニズムを明らかにしようと調査を行いました。

研究者たちが着目していたのは、自己対象化と寒さの感じ方の関連性です。

自己対象化(self-objectification)とは、他人が自分の外見をどのように知覚・評価するかについて強く意識を向けることです。

例えば、子どもの頃は自分が他人にどう見られているかはさほど気にしておらず、自身の立ち振舞や、身だしなみには無頓着です。

しかし、青年期になると、鏡に映る自分や、カメラを向けらたときに、自分の魅力に対する他人からの評価に意識が向くようになります。

真冬の女子高生はなぜ生足でも平気なのか? 我慢だけではない心理メカニズム
(画像=人は自己対象化の高まりで人から美しく見られたいということに意識が向くようになる / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

ただ、自己対象化は単純に人からよく見られたい、というだけの感覚とは少し異なり、自分自身も恋愛対象に含めてしまうような感覚をいいます。

水辺に映った自分の顔に恋をしたナルキッソスという神話がありますが、これは心理学的には自己対象化を表す例の一種です。

つまり自己対象化とは、他人からの視線を気にする「見栄え」と自分自身をみつめる「自己愛」を足して割った感じと言えるでしょう。

そこそこ悪くない、あるいはちょっとイケてる自分を、可能な限り自分好みに飾ってあげよう…という心理です。

この自己対象化傾向は、特に女性に強く見られることがわかっています。

男性にもないわけではありませんが、一般的には女性ほど強くはありません。

そして、この自己対象化傾向が高まったとき、空腹感などを感じにくくなるなど、身体感覚への注意が低下するということが指摘されています。

自身の外見に対する意識の増加が、注意力のリソースを消費してしまい、身体の認識に向ける注意力を減らしてしまうというのです。

つまり自分自身の演出に熱中するあまり、空腹も寒さも「どっかにいってしまった」状態と言えるでしょう。

ここまで聞くとたしかに、冬の寒さの感じ方と、自己対象化傾向が関連するだろうということは想像できます。

「寒さを無視したファッションは、快適さよりも美しさを優先する女性の外見に対する歴史的基準と一致しています。

ビクトリア朝時代のコルセット、ハイヒール、美容整形はすべて、見た目のために不快感に耐えている例と言えるでしょう。

ここでは根本的に同じ心理的メカニズムが働いているのではないかと考えました」

このようにフェリグ氏は、自己対象化理論の枠組みを利用して、今回の現象について調査することにしたのです。

寒いけど我慢できてしまう理由

研究チームは、米国の大都市でナイトクラブやバーの外に立っていた224人の女性に対して、気温が7℃~14℃の肌寒い2月の夜に聞き取りを行いました。

真冬の女子高生はなぜ生足でも平気なのか? 我慢だけではない心理メカニズム
(画像=冬でも肌を露出されるファッションは珍しくない / Creditjp.depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

ここでは服装の選択には関係なく、現在の寒さをどのように感じているかと、心理学の質問票で自己対象化傾向の評価を行いました。

同時に、彼女たちの服装も撮影させてもらい、肌の露出量も数値化しています。

これらを総合して分析した結果、自己対象化傾向の低い女性は、肌の露出と寒さの感じ方に相関がありましたが、自己対象化傾向の強い女性は、肌の露出が多い場合でもあまり寒さを感じていないことが判明します。

つまり、おしゃれにのために露出を増やしていた女性は、自分の見た目や見られ方に意識がいってしまっており、外気温度を正確に認識できなくなっていたのです。

(もちろんバーの近くで調査したので、研究者たちは彼女たちが酔っているかどうかも考慮しています)

寒いけど我慢できるということの裏には、どうやらこうしたメカニズムが働いていたようです。

もちろん今回の研究は、観測データであり、厳密に調査するための実験モデルを設計して調査されているわけではありません。

厳密な因果関係を明らかにするためには、将来的により詳細な実験を行う必要があるでしょう。

とはいえ、自己対象化に限らず、試験前や面接などですごく緊張していると空腹とか寒さとか、どうでも良くなるという感覚なら誰もが経験していることでしょう。

人は何かに強く意識を向けると、身体感覚への注意がおろそかになりがちです。

これは実際には、寒さの影響を受けてないということではなく、鈍感になっているだけとも言えるので、健康上の問題としては注意が必要でしょう。

女性に限らず、男性でも冬に薄着で平気という人は、自分の外見に意識が向いていて身体感覚への注意が疎かになっている可能性があります。

またこうした現象は、冬よりも夏の方がより危険になるかもしれません。

夏場に厚着のロリータファッションなどを楽しむ人や、厚手のコスプレを披露している人たちは、自己対象化の高まりで暑さに鈍感になっているかもしれません。

真冬の女子高生はなぜ生足でも平気なのか? 我慢だけではない心理メカニズム
(画像=夏場に厚手のコスプレなども同様の理由で暑さを感じにくくなって危険かもしれない。夏場のコスプレは注意しましょう。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

暑さを感じにくいお年寄りがよく熱中症で倒れるように、ファッションにこだわっている人は、そこまで暑くないと思っていても、身体は全然大丈夫ではない可能性があるのです。

身だしなみを整えることは円滑なコミュニケーションのために重要なことです。

ファッションを楽しむことは、自分自身を好きになるためにも大切なプロセスでしょう。

けれど、自分の身体感覚にも、身だしなみと同じくらいきちんと注意を向けてあげないと、大切な身体の健康を損なってしまうかもしれません。


参考文献

Women who self-objectify are less aware of the cold during nights out, study finds

元論文

When looking ‘hot’ means not feeling cold: Evidence that self-objectification inhibits feelings of being cold


提供元・ナゾロジー

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