森の中は小鳥や虫の鳴き声に満ちあふれ、非常に騒々しい場所です。

それに比べて、水中は発声に適した環境ではなく、音のない静かなイメージがあります。

しかし、そんなことはないようです。

このほど、コーネル大学(Cornell University・米)の研究により、一般的な魚の多くは何らかの発声音をもち、コミュニケーションに用いていることが判明しました。

特におしゃべり好きなのは、アンコウとナマズ類とのことです。

研究の詳細は、2022年1月20日付で科学雑誌『Ichthyology & Herpetology』に掲載されています。

目次

  1. もっとも饒舌なのはアンコウとナマズ

もっとも饒舌なのはアンコウとナマズ

研究主任の一人、アーロン・ライス(Aaron Rice)氏はこうは話します。

「私たちは長い間、魚が音を出すことを知っていましたが、それは珍しいことで、普遍的な習性ではないと考えていました。

彼らのコミュニケーションは主に、色彩信号やボディランゲージ、電気などに頼っていると考えられたからです」

また、同チームのアンドリュー・バス(Andrew Bass)氏は「魚類の水中音響コミュニケーションの分野はクジラやイルカに集中しているため、長らく見落とされてきた」と話します。

しかし今回の研究により、魚たちの多くは「おしゃべり」であることがわかってきました。

チームは、一般的な魚の大半を含むグループである条鰭類(じょうきるい)を対象に、これまで収集された最も包括的な音声のデータセットを分析しました。

条鰭類には現在、3万4000種以上が存在すると言われています。

175科を調べた結果、その3分の2は音を使ってコミュニケーションを取っていることが判明しました。

これは以前予想されていた5分の1という見積もりを大きく上回ります。

音の出し方としては、歯ぎしりや水中での運動音が挙げられますが、最も一般的な方法は、鰾(うきぶくろ)を使ったものでした。

鰾は気体の詰まった袋状の器官で、魚はこれを利用して浮力を調節します。

ライス氏いわく、「鰾の筋肉は、あらゆる脊椎動物の骨格筋の中でも最も速く収縮する筋肉のひとつ」とのこと。

この収縮運動によって音を出しているようです。

調査によると、175科のうち鰾の振動を用いる魚は60科で、そのうちの多くがアンコウとナマズ類でした。

こちらが、イサリビガマアンコウの声サンプル。

こちらは、イットウダイ科のロングスパイン・スコーレルフィッシュの声サンプル。

これらの音声コミュニケーションは、条鰭類において少なくとも33回独立して進化した可能性があるとのことです。

明らかに、魚たちは音を重要なコミュニケーションの一つとしています。

さらに、魚の発声は約1億5500万年前に出現したことが示されましたが、興味深いことに、これは陸上の脊椎動物(最終的にヒトが進化したグループ)が初めて発声した時期とほぼ同じだという。

チームは論文内で、「この結果は、魚の発声が古代からあったことを強く支持するものであり、発声の進化が、脊椎動物の系統を横断するほど、強い選択圧を持っていることを強調している」と述べています。

その一方で、魚が発声によって何を話し合っているかはわかりません。

エサの場所や危険の警告、縄張り争い、あるいは異性へのアピールに使っていることが予想できます。

彼らの言葉が理解できれば、それを駆使してサンゴ礁を若返らせるために魚を呼び戻すことができる、と主張する研究者もいます。

使い方次第では、人と魚の絆を深める重要なコミュニケーションツールとなるかもしれません。


参考文献

Fish Have ‘Talked’ For 155 Million Years, And Now You Can Hear Their ‘Voices’

元論文

Evolutionary Patterns in Sound Production across Fishes


提供元・ナゾロジー

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