Robert・Buz・Chmielewski氏は10代で事故に遭い、30年間四肢が麻痺した状態で生活してきました。
ところが2020年12月10日、アメリカのジョンズ・ホプキンス応用物理研究所(APL)の神経科学者Francesco Tenore氏ら研究チームは、Chmielewski氏が2本のロボットアームを同時操作しデザートを自力で食べたと報告。
Chmielewski氏の脳には電極アレイが埋め込まれており、ロボットアームは脳によって直接操作されました。
脳に電極アレイを埋め込み、触覚を得る手術

Chmielewski氏は四肢の麻痺により、手や指がわずかに動くだけで感覚もほとんどありません。
しかし、約2年前に臨床試験の一環としてジョンズ・ホプキンス病院で10時間にわたる脳外科手術を受けました。
この目的は、参加者が補助装置を制御し、脳の神経信号を使って物理的な刺激(触覚)を得られるようにするというもの。
実際、Chmielewski氏の脳には6つの電極アレイが埋め込まれ、手術後数か月以内に2つの義手を同時に制御することができました。さらに、僅かながら触覚のような感覚が得られたとのこと。

義手から脳にフィードバックされた触覚について、当時のChmielewski氏は「説明するのが難しいですが、それは脈拍や血圧のように感じました。その感覚は小さく、ピンや針で触っているかのようです」と述べていました。
この成果とChmielewski氏の進歩に感銘を受けた研究者たちは、さらに高度な研究に取り組むことにしました。
脳で2本のロボットアームを同時操作し、ケーキを食べる

そして最近、研究チームは人工知能・ロボット工学・ブレインマシンインターフェースを融合させた「クローズド・ループ・システム」を開発。
これによりChmielewski氏は脳から直接ロボットアームに指示を出し、食事できるほどの細かい作業が可能になりました。

実演ビデオには、ロボットアームがナイフとフォークを使ってケーキを切り、Chmielewski氏の口に運ぶ様子が記録されています。
ちなみに、2本のロボットアームの同時制御は、1本の腕を操作するよりもはるかに難しいと言われています。
研究チームによると、「脳が1本の腕を制御する作業を『1』とするなら、2本の腕を同時制御するために脳が行っていることは、単純な『1+1=2』ではなく『3.8』に相当する」とのこと。

さて、今回のテストでも大きな成功を収めた研究チームとChmielewski氏は、今後も更なる技術の向上を目指しています。
研究責任者でもあるTenore氏は、「作業中の感覚フィードバックをさらに追加することで、視覚に頼らなくても作業できるようにしたい」と述べています。
健常者が目を閉じたまま靴ひもを結べるのは優れた触覚のおかげですが、同じような感覚をChmielewski氏にも与えたいというのです。
今回の報告に含まれる「Chmielewski氏の頭にケーブルが繋がっている映像」は、私たちに強いインパクトを与えたのではないでしょうか。
しかし研究内容や将来性は見た目以上だと言えます。今後の進展にも大きく期待できるでしょう。
参考文献
Johns Hopkins University
提供元・ナゾロジー
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