既報したように「H&M」原宿店が契約終了に伴い8月2日に閉店する。2008年11月8日にオープンし、約14年間営業してきた。オープンに際しては、「コム デ ギャルソン(COMME de GARÇONS)」とのコラボレーションコレクションを先行発売し、開店前から約2000人が前夜から行列したのが思い出される。2008年9月13日にオープンした「H&M」銀座店も2018年7月16日に閉店している。現在の「H&M」にとって、銀座、原宿は日本の2大拠点ではなく、従来から最大売り上げ店舗は「H&M」渋谷店だったが、家賃の高い銀座店は言うまでもなく、思ったほど売れなかった原宿店は赤字だったということなのだろう。
最近では2019年9月に日本撤退した「フォーエバー21(Forever21)」の例がある。同ブランドは日本撤退と時を同じくして企業自体が経営破綻して米国連邦破産条約法第11条を申請し経営再建中だ。日本撤退したSPAブランドということになれば、「トップショップ(TOPSHOP)」(2015年)、「オールドネイビー(OLDNAVY)」(GAP社ブランド、2017年)、「アメリカンイーグルアウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS)」(2019年)などがある。「ザラ(ZARA)」が本格化するまで、この手の商品を売っていた1980年代の代表的な店はパリの「タチ(TATI)」だったことなど知っている業界人はいなくなりつつある。それぐらい消長の激しい業界なのだ。
話が横道に逸れたが、今回の原宿でのグローバルSPAの閉店ラッシュを考えるとその理由として以下のようなことが考えられる。
①コロナ禍によるファストファッションの全世界的な低迷
②日本市場には全くフィットしなかった「フォーエバー21」や「H&M」などのグローバルSPA
③原宿マーケットのパワーダウン
①については、コロナ禍の克服については、SPA(アパレル製造小売業)業界最大手のインディテックスや業界第3位のファーストリテイリングについてはすでにコロナ禍以前の水準に復帰しているが、第2位の「H&M」のコロナ禍からの回復が遅れている。ファーストリテイリングにSPA業界第2位の座を明け渡すのは時間の問題と見られている。SPAという言葉を考案したドナルド・フィッシャー(Donald Fisher)が創業者であるSPA業界第4位の「ギャップ(GAP)」はコロナ禍でさらに厳しい状況におかれている。SPA企業とは絶えず拡大して量産効果を得ることが成長の絶対条件であって、すでに「H&M」や「ギャップ」はSPAのマラソンレースにおいては脱落し始めている。ましてや規模がその10分の1にも満たない「フォーエバー21」に至っては、言うまでもないだろう。
②本来なら日本市場では、そのブランドの全世界総売上高の10%程度の売り上げがあるはずだが、「ザラ」「H&M」はピーク時ですらせいぜい5%程度の水準だろう。一方、日本のラグジュアリーブランドについて、その全世界シェアを見てみると、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」が10%(2000億円)、「グッチ(GUCCI)」が10%(1000億円)、「シャネル(CHANEL)」が10%(1000億円、化粧品含む)、「エルメス(HERMES)」が15%(1200億円)といった水準だろう(推計は筆者)。グローバルSPAの日本シェアは、ラグジュアリーブランドの半分以下なのだ。これが日本シェア10%までいくのは難しいだろう。日本ではグローバルSPAはなかなか根付かなかったという言い方もできるかもしれない。
③原宿というマーケットのパワーダウンは本当なのだろうか。よく考えてみると、原宿からは「ギャップ」の旗艦店がなくなっている。最初は明治通りと表参道の交差点に店を構えていたが、JR原宿駅前へ移転し、2019年にクローズしている。ラフォーレ原宿を日本の本拠にしていた「トップショップ」、東急プラザ原宿に入居していた「アメリカンイーグル」はブランドの日本撤退に伴って閉店している。これに前述した「フォーエバー21」、今回の「H&M」がクローズしている。正直言って、家賃も安くはない原宿に店を構えているメリットはないと言うのが本音だろう。本音と言えば、何回も移転が噂されている「ザラ」原宿店も契約のシバリがなければ出たいのがホンネと言う噂もあるくらいだ。コロナ禍のこの2年5カ月で明治通り北側(明治神宮側)の原宿の地価・家賃はかなり下落している。今回「H&M」が抜けた後もその後はなかなか決まらないという。「カフェとスマホ屋がなんとか商売になるぐらい。洋服屋はお呼びじゃないね。ファッションで商売になるのはスニーカー屋ぐらいだろう」と現在の原宿の状況をある不動産業者は嘆いている。環境の良さから、ラグジュアリーブランドが注目する明治通りの南側のいわゆる表参道、そして青山通り南側の南青山に比べて、原宿の苦戦は続きそうだ。
文・三浦彰/提供元・SEVENTIE TWO
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